せんせい、待って。

声をかけると、佐々木先生は、
渋い顔で立ち止まって、僕を見上げた。

夕暮れ近い曇り空。

キスして。

先生は首を振る。いそぐから。

少しだから、いいじゃん、
ちょっとだけ。
ちょっとだけ。

黙って僕を見ていた先生が、ゆっくり近づいてきた。
こころがドキドキする。せんせい。

そっと僕を引き寄せるその腕の強さに
一時の愛しさを感じる、温められているって、錯覚する。

先生の唇が、重なった。舌が、割って入ってくる。

せんせい。

何分経ったんだろう、繰り返し繰り返し愛撫して、
やっと放れると、せんせいを見て、僕は笑った。

きっと泣きそうな顔してる。
分かってるから。せんせいが、嫌がってること。
ぼくとこういうことになってしまって、
後悔している事。

それでも笑った。

せんせいが、僕を急に引き寄せた。
ぎゅうっと、胸に抱きしめる。
あんまりの気持ちよさに、呼吸が止まる。

「お前に、本気になって、いいんだろうか」

先生の声。
ハスキーで、温かい声、
意味がわかる前に、先生はもっと言葉を落とした。

「ユキサザ、これ以上先は、逃げられなくなるぞ」

いいよ、せんせいとなら、いいよ。

ぽつっと、雨が降ってきた。
それでも、ふたりぼっちで、そうしていた。