僕はお酒です。
正確に言うなれば、酒瓶。
大魔王様が、
人間だった僕らに
おいしいお酒を詰めました。

そろそろ六月で
寒い雨が降っています。
外に晒されて
肌は滑りながら雨滴を流します。

大魔王様は、
このごろラムネソーダばかりをお飲みです
僕らはなんだか役立たずになって
外に出されっぱなし

なんでか分からないけど
あとからあとから
目からお酒がこぼれます。
それをちゅぱちゅぱ舐めながら
裕輔が笑う。
春海、泣くなよう。
だってよう、泣きたいんじゃないんだけどよぉ
お酒がこぼれるんだよぉ
発酵してるのかな
発酵しているのかも。

裕輔、ねぇ、大魔王様、僕らのこと忘れちゃったのかなぁ。
いいじゃん、忘れられても。
そうだ、こっから逃げ出して
ふたりでお酒をのみっこしよう。

裕輔はいつも、楽天家です。

いい考えだ。
そうかなぁ
そうだよぉ。

裕輔が僕の唇にキスして、ちゅうっとお酒を吸い上げました。
裕輔のお酒に、僕のお酒がこぽこぽ混じりました。

遠い茨の木々の向こう、深海の竜が住む場所に、
あるべき姿に戻してくれる魔女がいるという。
そこにいったら、僕らはまた人間に戻れるんだろうか。

ねぇ、春海、僕らはこんなんだけど、
随分幸せじゃないか。

さぁ、いこう。