「ひとりぼっちの夜を過ごすことになんでなれたんだろう」
たきやが言う。
帽子を抱えた手はちっぽけだ。
「この間冷蔵庫にアイスを入れておいたら、もこもこに変身していたよ」
もこもこかぁ。
そうつぶやくと、たきやはくふっと笑った。
帽子をこねくり回す。
20歳になって初めて買ったアンドロイド。
アンドロイドとは嘘っぱちで、
実は捨て子なのだと、この間知った。
施設はどうだったの。
そう聞くと、少し寂しそうに瞳に影が落ちた。
「神父様がいたよ」
どうやって施設からアンドロイドになったの?
「よくおぼえてない。逃げて逃げて、アンドロイドになったよ」
買ってやった帽子。
よっぽど気に入ったらしい
夜も昼も持ち歩いて、人前ではけっしてかぶったりしない。
この間のぞいたら、
こっそり部屋でかぶって笑っていた。
嬉しそうに。可愛いんだ。
たきや、アイス買う?
「買う。チョコのはさまってるのがいい」
二個買って、一個冷蔵庫にいれて実験しよう。
「実験?」
もこもこになるんだろ。
「そうだねぇ」
たきやがおずおずと、俺の手を握る。
少し動かすとすぐに逃げてしまうので、
気づかないふりをして、
その手ごとぽっけっとに突っ込んだ。
たきやがあひゃぁと言った。可愛いんだ。
「手ーとっちゃやだー」
いいんだよ。
「よくないのーとっちゃやだー」
ん。ふふ。
たきや、とつぶやくと、ん?と顔をあげて不思議そうに。
「おっさん神父様にちょっと似てる」
おっさん言うな。どんなところが?
「俺に優しいとことか…」
たきやがため息をつく。

たきやが言うんだ。
何度か、少し寂しそうに。
「たまに思い出すんだ。神父様。
そんで、
そんで、
あれが恋だったな、って想うんだ」

あれが、恋だったな、って想うんだ。

小さなたきや。君が大人になったら、
そんな恋、もう思い出させない。