ぶん殴りてぇ…

大音量でステレオからロックが流れている。
濃い酒をのどに流し込み、
潰れた恋人にカーテンをかけてやる。

だってここにはカーテンしかないからね!!

おまえいつもどうやってねてんだよー

とかもぞもぞ、呆れた声で言いながら、
ありがと。
ぽつりとつぶやく。赤い顔して。

小指立てて

ありがと。

うっせーばーか。

ウイスキーのオンザロックだっけ?
なんだっけ?
ツーフィンガーって言うんだぜ
わけのわからんことを言いながら
こいつがどぼどぼ酒入れていた。

ツーフィンガーって
2本指だろ?
酒に2本指がなんで関係あるの?
かき混ぜるの?こう?
やってみせたら、こう。と言って鼻に指突っ込んだ。


どこで覚えて来た。


ゲラゲラ笑ったら、マジでツーフィンガーっつーんだよ、馬鹿。

怒っていたっけ、わけわからん。鼻に突っ込むのと酒がなんの関係あるんだよ。
「タヴゥン酔わなくなる」
”多分”をいい発音するな。
ばかーばかーって言い合って、酒ぐびぐび飲んだよ。
くそにげー。殴りてぇ。ばーか。ばか。

熱いほど暑くて、
クーラーもないせんぷーきもない洗濯機もないこの部屋は。
汗だくになってもまだあちーと男は言う。
洗濯機ねーのうち。汗かいたらどうしてる?
あーーーーー、考えてねー。

…考えろよ。

パンツは裏表にはくそうな。
あちーっつーのなんとかしろッっつーから怪談はじめたら


ひぃいいいいいいいいいいいいいい

つって涙目になっていました。ばか。

昼まっからつぶれた男とふたりきり。
あちーねーなんてつぶやきながら、
あちーねーなんて生ぬるい酒を飲む。

なんか幸せなんだよな、
なんでだろうな、
なんか、ふたりして幸せなんだよなぁ
っかしいよなぁ

布団も、ないのにさ、
カーテンしか、ないのにさ。
酒しか、ないのにさ。

なんでふたりっきりで、
約束、なんて、小指からませて
他愛も無い約束してばかりで。

セミが、じーじーって、鳴いてる。
蛙がげこげこ言ってる
土の匂いがする、
蒼く茂った若葉の匂いがする

不幸だったのは

こいつと会ってなかったから。

こいつになら

裏切られてもいい。

そう想うんだ。
思えるんだ。
それでも、愛しちまうに違いないって。

   裏切らねーーーーーって信じてるってマジで。

言うのは簡単なのにいえない一言。


つーふぃんがー。


つーふぃんがー。


ふたりして鼻に指突っ込んだ。

それが挨拶代わりになるのも、もうすぐのこと。