絶対体温

綺麗な音が響いていた。
もうすぐ夕暮れだ。
僕は絶対孤独と、薄暗い路地を歩いていた。
小鳥の音が、空に飛んでいった。
「あの・・・」
小さな、か細い、声をかけられて、僕は足を止めた。
絶対孤独はそのまますたすた行こうとする。
振り返ると、あの、逃げ出したといわれている、
王の婿がいた。
うつむいていたあの顔のままで。
「あれ?君」
「かまうな、鼓動体温」
絶対孤独が僕に言う。
「かまうなって、そんなわけには」
「助けてください、僕追われているんです、
かくまってください、お願い」
「君、どれくらいそれを人々に言ったんだ?」
孤独は渋い顔をして、僕の腕をつかんだ。
「行くぞ、体温」
「ついてきなよ」
僕は言う。孤独ががーっと叫ぶ。
「一緒に暮らそう」
彼の名前は水銀罪悪と言った。

お昼過ぎにそれを見た。
孤独と水銀がしゃべっていた。
「中央水深は、僕が嫌いなんです」
「そんなことない」
「あの人は僕をがんじがらめにしてしまう」
「あの人はただ怖いだけだ。
誰も愛してくれないと。おびえているだけだ」
「僕を連れて逃げて」
水銀が、絶対孤独にしなだれかかった。
「あなたと一緒に行きたいよ」
僕は全てを見る前に逃げ出した。

中央水深は、なんで水銀罪悪をなぶるの。
なぶってなんかいないさ、ただ怖いだけだ。
縛り付けるから水銀は嫌うのじゃないの?
でも縛らなければ水銀は逃げてしまうだろう。
ならどうすればいいの?
どうすればいいんだろうな。

行くと水銀はいなかった。
ベッドはまだ暖かかったけど、もぬけの殻だった。
僕は慌てて絶対孤独を探した。
孤独は渋い顔で、新聞を読んでいた。
新聞には青い文字で、水銀戻る、と書いてあった。
僕はほっとして、嫉妬して、どうにもこうにもやるせなくなった。
「そんな新聞読むなよ」
僕は孤独からひったくると、ぐちゃぐちゃに丸めて捨てた。
孤独は微笑んだ。
「水銀、戻っちゃったぜ」
「あんなやつのこと、考えるなよ」
それで僕らは旅支度をして、
少しの握り飯とたくわんを持って、
街を後にした。
孤独の背中に。何度も聞こうとしたけど
聞けなかった。何度も疑問はいったりきたりしたのだけど。
どうして水銀は戻ったの。
水銀をどう思っていたの。
「水銀はこれからどうなるのかな」
ぜんぜん別のことを聞くと、
孤独は
「さぁな」といった。