ペニシリンが、僕の髪の毛をこすこすほお擦りする
くすぐったいよ
笑って言うと、なんか泣きそうな顔で
ちゅってほっぺにちゅうされた
すきー
そんなすき?
うん、いっぱい
いっぱいなの
いっぱい
くすぐったいなあ、って思いながら、
ペニシリンの好きにさせておく
本当はこういうの、嫌いじゃない

僕らは影法師です
いつもなら、草木の、駒鳥の、ありんこの、
小さな影を作ります
名前はありません、
いつだったかペニシリンが、どこでおぼえたのか
ぼくはペニシリンです、と宣言して
ペニシリンになった以外、影法師は
どれも名前なんかありません

夜が来るとぼくらはおやすみです
そらの影法師は、大きな神様がやるから
ぼくらは必要ないんです

ペニシリン?
横を見ると、しゅう、しゅう、と
小さな寝息をたてて、ペニシリンが寝てる
でも嘘寝なんだ
ぼくらは寝なくったって平気だから
ペニシリンは「にんげん」の真似ばかりする
よくないんだぞ、ほんとは

ペニシリン
囁くと、まぶたがぴくっとした
薄めで僕を見る、可愛い
あかちゃんみにいこうよ

二丁目の、角の坂屋さんで、
あかちゃんが産まれたのです、
ぼくら影法師はどれもあかちゃんが大好きです
ちいさなお手手でぎゅってされて、もみくちゃにされるのも。
あかちゃんはまだよく見えない目で
ぼくらをみます、認識します
そしてきゃっきゃとわらいます

ペニシリンと手をつなぐと
ペニシリンはひやっといって僕にだきついた
なにすんだよぉ
手なんかつなぐからくっついちゃった
くっついちゃったじゃないだろー
わらってわらって、ぼくらははなれて、
こんどは唇をあわせた、
ちいさな、ペニシリンの冷えた唇

あかちゃん何歳?
歩き出しながらペニシリンが言う
まだ生まれたばっかりだよ
そりゃかわいいね
かわいいよぉおさるさんみたい
もう見たの?
見た
ぷう
なにふくれてんだよぉ
いっしょにみたかったのにぃ
あはは

あはは

ペニシリンの手のひらは温かい
ぼくらは、場が穢れると、どこかへまた移住しなければなりません
この土地も、人が住みすぎて、
そろそろはなれ時だよね、なんてみんな言っています

今度もペニシリンと一緒になれますように

祈っていたら、夜空にひかり星が落ちた