「神父様ぁ、いいこいいこしてぇ」
甘えた声でしなだれかかると、
神父様がくすっと笑って、髪の毛に手を置いた。
「いいこいいこ」
「しんぷさまぁ」
俺は神様なんて信じてない。
この教会に来るのは、
来てこんな変なあまえっこを演じるのは、
一重に神父様のためだ。
この人の手のひらで、頭を撫でてもらえるなら
俺はなんだってする。
「キシナシ…、また町で盗みをしましたね?」
神父様が手をとめて、じっと俺を見た。
俺は焦る
「ち、ちがうよぉ、
あれはもらったんだよ、
神父様、ぼく盗みなんかしないよぉ、
しんじてぇ」
でも分かってる、いくら「いいこ」の仮面をかぶっても
神父様はすぐ見破ってしまう。

神父様は俺が嫌いなのかもしれない
悪い子だから、嫌いなのかもしれない
いつか、「捨てられる」かも、
そう思うだけで、俺は震え上がる、
そんなことになったら、
俺はどうすればいいんだろう

「しんじて、しんじてよぉ」
考えていたら涙が出てきた、
神父様は知らない、
母も父も、俺にもう「ごはん」なんか作ってくれない
ひもじくて、盗んでは食べ、盗んでは食べを繰り返して、
俺が生きていて幸せだと感じるのは
「あなた」に会ってるときだけなんだ。

「しんじてよぉ」
涙をぐっとこらえながら、神父様のおなかに顔をうずめる。
神父様がいいこいいこしてくれるから
それでも俺はこの町が好きで、離れられない。

「……」
神父様がまた、俺の髪の毛を撫でてくれた。
俺はほっとした。建前の演技が、少しでも効いたのかと。
町の子供達と遊んでいる神父様。
その姿を見たときから、ずっとこうされたいと思っていた。
だから演技力を身につけ、「いいこ」の仮面をつけ―…

「キシナシ…私と一緒に暮らしませんか?」

一瞬、言われたことが分からなくて、目を上げる
神父様がやさしいお顔で、じっとこっちを見てる。
「キシナシがもう飢えなくてもいいように…
もちろんこの教会で働いてもらうけれど、
貴方のご両親みたいに、
育児を放棄したりしません」
私はパパになってみたかったんです。

そう言って、神父様は笑った。
ぶわっと涙が出て、嗚咽も出て、
あれ、おかしいな、といいながら、
一生懸命涙を拭く、
神父様が俺をぎゅうっと抱きしめた。
片手でいいこいいこしてくれる。

神父様ちがう、おれ、おれ、
あんたとこいびとになりたくて、
こいびとに―…

「貴方はいいこですよ…キシナシ…
もう、仮面はかぶらなくていいから…」

ただ、俺は泣いていた、
ただずっと、泣いていた。