船底を叩くと
人魚が不思議がってあがってくる。





「づげー」
風がごんごん吹き上げる。
雨がざぶんざぶんと海を叩き打つ、
何か黒いものが波に乗っているが、
よく見えない。
「つげぇえええ」
雨の勢いにちょっと押されて、
海にいまいちど顔をつけた。
しん、とした深い世界。
どんどんどんどん潜る
どんどんどんどん
今日はこれで冒険終り
岩の合間にもぐりこむと、
竜のおっさんが優雅にたゆんでいる。
「よぉ、そらはひどいか」
「そらはひどいな」
「アッ」
何か光がはじけた。
海面から落ちてくる光、それがひとつ
たばになってくるくる、くるくる、
ゆっくり、ゆっくり、
落ちてくる。
「にんげんだ…」
しぶい、竜のおっさんの声。
「にんげん?」

にんげん?

見ると、自分にそっくりな
でも似ても似つかない変なやつがおりてきた。
「ひゃあ」
「人魚のサトに連れてっておあげ。
しんじまうぞ」
「にんげんはしぬのか?
サメにやられたか?」
「いや、人間は海じゃ泳げんのだよ」
「ほほぅ」
ほっぺをつんつん、とすると、
つるっと指が滑って。
「つげー」
なんだか、ドキドキした。