キスするときゃたきゃた笑う
いつだって笑ってばかりのおばかさん。
おばかさんだねぇ、なんて詰ると
ちょっと嬉しそうにてへへなんて笑う
可愛くてまたぱくーってキスすると
またくちぐったいなんて。
繰り返し繰り返し何度も何度も。

森の深い、深い場所、
木々の絡まった緑色の虚ろに、
その「魔物」は棲んでいる。
私は生えた牙で
かぷりとやるために
そいつに会いに行く。
名前教えて、って言ったら
駄目ーって言うから
かぷりとやる。

かぷりとね、やるたびにね、
くちぐったいって笑うんだ。
むっちゃくた可愛くて、さぁ。

本当に食べちゃいたいって
そんな気持ちが湧き上がって
かぷーかぷーかぷーってやっていると
泣き出しちゃう。
くちぐったいよぅって。
ごめんねごめんねって謝って
ちうってキスする、

いつ会ったんだっけ?
いつからこの子にぽちゃんと落ちちゃったんだっけ?
この可愛い、お耳の子に。
この可愛い、お口の子に。

この子の皮膚にかぷってついた
唇の跡。それを見ながら幸せだなーって
そう、しみじみ感じ入る。
ああ、この子が笑うたび
ああ、この子が微笑むたび
くちぐったいって言うたび
ちょっと泣き顔見せるたび
手でこしょこしょっと僕を抱っこするたび
なんだか泣きそうなほど強く温かい何かで

胸が満ちる。

この人が欠けたら
生きれない


もう一回かぷーってした。
くちーーーーー
もう声にもなってない。おばかさん。
「なまえおしえて」
「ないの」
くちゅくちゅ笑いながら、
僕のお耳をかぷっとやり返す。
「ないの」
「ないの」

つけて。

ぎゅって、僕を抱っこしながら、そう言った。









ないの。

ないんだ。

なにも。

手に入れたのは

君だけ。



なまえ、つけて。







例えそれが縛られる証だとしても。
孤独な狼は、それから僕の、
お嫁さんになりました。まる。