黄色:吸血鬼

雨上がりの空はにび色に輝き
遠くの山の端を、夕暮れに染め上げる。
雲をだいだいにうつして、水溜りはぱちゃんと音を立てる。

「吸血鬼、か?」

問いかけた答えを、たけひとは憮然と口にする。
ばかにするな。そう言うように。

「くだらぬ。何を信じているのだ、お前は」

先ほどまで一心不乱に操っていた弓、
肩に結びつけたそれが重いのか、
額にかいた汗をぬぐう。

「いないと想うの?」

「いないもなにも」

愚かしい。かすかに微笑むその横顔。

しばらくその顔に見とれてから、手袋をしていない右手をじっと見る。
「…何を見ている」
「…なんだとおもう?」

「…にぎりたいならにぎればいい」

こほっと咳払いをして、たけひとが言った。
耳が夕日の様な色になっている。

こころにさ。あんたのこえが沁みて、
たいへんなんだから。

手袋をはずす。たけひとが見ないように、見ないようにしながら、
手をうずうずさせている。
はずした途端、汗に空気があたって、ひんやりした。
ほんのり手のひらを絡ませると、たけひとが握り締める、強く。

「吸血鬼」

「うん?」

「いるとおもうのか?」

たけひとは、私と歩くときはいつもゆっくり歩く。
だから、私もゆっくり歩く。
一度聞いたら、すこし不思議そうに考えて、
その後真っ赤になって、てれていた。

一緒に長くいたいんだ

怒ったように言いやがって

「…」

「いたらどうする?怖いか?」


昨日、僕の首筋に噛み付いた。たけひと。
目じりに涙をにじませて、吸血した後、ごめん、と


呆然と


記憶を消した。けせた、想っている?

「たけひと、吸血鬼、私、きっと好きになると想う」
「…亜樹」

マフラーの中に手を入れて、きずあとをなぞった、
かがみでこれをみたとき、さあっと、あざやかに。

おもいだした、痛いほど、きもちよかったこと




隠さなくていいよ





たけひとは、憮然としていた、
耳が夕日の色になって、目じりに涙が浮かんでた