今夜:歌人

ましろい雪が、しんしんと降っている
何処か、心を埋め尽くすように。

冷えた木の床。丁寧に磨かれた縁側で、背筋を伸ばし
笛を吹く、武。音色は雪にうずまり
とても静かに

静かに

静かに

彼が、私を呼ぶたび、私は快楽に打ち震え
私は生まれてよかったと思うのだ
私は此処に居ていいのだ、泣きそうに、そう

今は、ああ、今は、
笛の音が体中包み、
胸の奥がかすかに軋むだけ、
雪の音、武のおと

あったかな、やわらかな、
どう言っていいか分からないほど、
悲しい音、泣きたい音、胸が満ち、
走り寄って抱きしめたい

そう、感じ入る音

もうこれ以上鳴らされたら、
私は壊れ泣き叫ぶ
その瞬間にいつも音は止む
切りつける様な余韻を持って
音は止む

武が、笛から唇をはなし
その赤色のほほで微笑んだ

私は手を叩いていいものかどうか迷い、
(いつも迷う)
(余韻が壊されそうで、でも手を叩きたくて)
その代わり、武をそっと抱きしめる

今まで、包んでくれた軋みと同じぐらい

強く

しずかに



そうして、次の瞬間を待ち望む
とてもとても幸せな次の瞬間を、待ち望む
体が震えるほど

武が、


私を、呼ぶ










気づくといつも首筋に噛み付いている
泣きながら
武は私を抱きしめ、少し頬を紅潮させ、
いとしい


ぽつりと言った





幸せが、絶望で


悲しみが、やすらぎ

涙が、止まらないのを、
静かな気持ちで見ていた