雪が見えた。

だから、


目尻が熱くなったんだ。


セキハは病もちで、
どんな病かと言うと
人と喋るときにどうしてもどもってしまうという
笑われそうな病持ちだった。


僕といるときぐらい、喋ったら?


だ、だ、だ、だって、に、に、にいちゃん


おどおどと顔を赤くしながら手をひねくりまわす。
セキハの耳の形を見ながら、
それを触りたいと想った。


か、か、かあ、かあ、さんが、
しゃ、しゃべ、しゃべる、な、て

母さん、もういないじゃん

で、で、でも、お、お、おれ、う、うざ、

うざくないよ


セキハ、と唇に声を乗せると、少し甘い気がした。
セキハの耳がよっぽど赤くなる、僕をちらりと見て、また目を伏せた


に、にいちゃん、は、しゃべ、しゃべって、て、い、いいよ、
お、おれ、に、にいちゃ、の、こえ、す、き

はぁはぁと息を呑む

形のいい唇が、微かにふるえていて、
それを触りたいと想った

セキハ?



無言で僕を見つめる目が、熱く潤んでいた、
さわっていい?

え、あ


こたえを聞く前に、机に乗り出して、まず耳から触った、セキハがびくっとした




あ、そか、










セキハから唇をはずすと、セキハはこほ、と咳き込んで、ふるえていた

窓を見ると、雪が降っていた