青樹が、そっと、そっと近づいてきて、
唇に自分の唇、そっと重ねた
青樹の吐息がかかる。

―キスの練習させて

青樹は言った
俺の紹介した女の子と、あしたデートなんだって

―いいよ

俺のこと、女なれしてると思ってるんだろーな。

ご期待に応えて、舌を差し入れると、
青樹がびびくっと震えた、
逃げようとするのを、無理やり抑えてくちゅくちゅ蹂躙する。
ん、ん、って、小さくつぶやいている。
可愛い…

本当は、女なんか紹介すんのやだった。
青樹はずっと俺が好きなんだと思っていた、
俺の気持ち、気づいているのかいないのか、
ぼんやりと、俺の姿ばかり追ってる、その子犬のような目。

わざと女と仲良くしていると、
何かと邪魔してくる。それがいじらしくて、可愛くて、
何度も同じことを繰り返した。

なんでこんなことになったのか、
未だによく分からない。
話の流れで、そうなっちゃったんだ。
気づいたら、青樹に女の子紹介するって約束してて、
青樹は戸惑ったような顔していて、
周りのやつらが騒いで、青樹は女の子と付き合いだして、

はなれると、青樹が、はあっと吐息をついた。
ぎゅっと抱きしめると、びっくりしたように俺を見上げる。
「田所君…」
「なぁ、青樹、本気であの子と付き合うの?」
「………」
「青樹、俺のこと好きなのかと思っていた」
びくっと青樹が俺を見上げる。
いじめられた子犬に似た、その目で。
「だ、だめ…?」
「だめって…なにが」
「た、田所君、好きなのダメ…?」
「………………………………」

すうっと息を吸った。

「ばっかかあ、おまえはあああああ!!!!!」

びびくんっと青樹が震えた、ごめんなさい、ごめんなさい、と
涙をためて謝る。
「あほ、まぬけ、とんちんかん、」
語気の荒さと対になって、ぐいぐい青樹を抱きしめる。
ちゅうっと、もう一回キスした。
ちゅっちゅっちゅっとおさまんねぇ、何度も青樹に唇を合わせる。
青樹が涙ぐむ。

「お前さ…俺のこと、好きなの?」
「うん」

こくんと、青樹が首を落とした。

「ごめんなさい」

涙がぽろっとおちた。
それをちゅっと吸って

「なら、あの子、ちゃんと断ってこいよ
なんで俺が言った時、ちゃんとことわんねぇんだよ
紹介しちゃっただろ」

「だって…田所君の女の子だから…」

「失礼だろ」

「ご、ごめんなさい」

「俺にしておけよ」

青樹が、え?と顔を上げた、呆然としている、
急激な展開に、ついていけないみたい。
「俺にしておけよ、恋人、
なろーぜ、青樹、な」
おでこくっつけて、微笑むと、青樹がぽろ、とまた涙をこぼした。
泣き虫。
「田所君…」
「りょうちゃんって呼んで。
今度から、俺、お前のりょうちゃんね」
笑った。青樹はぽろぽろ涙をこぼしていた。