雨上がりの湿った匂い
優しいさやさやとした空気の中で
イナを抱きしめた

イナは隣村の村長の息子で
僕はこの村の千戦と呼ばれる戦士の息子だ。

イナがため息をつくように、僕から放れて手を握りしめた
そのまま無言で、僕らは皮膚と皮膚を何度も重ねた。
セックスじゃない、愛撫のように、
ただ、優しく、優しく。
ぬくもりを分け合うように。

なんにもしゃべんなくても、
僕にはイナの声が分かった、
なんにも言わなくても
イナにきっと伝わっている
そう確信しながら、
僕はもう一度、イナを抱きしめた。

これから戦争が起こる、
イナの村と、僕の村と。
これから、戦争が起こる。

イナ、このまま逃げよう、ふたりぼっちで、旅をしよう
それとも一緒に、高台に昇って、争いはやめて、といおうか。

男同士、敵同士、どうしようもないのに、
僕はイナに恋をしている。

そっと口づけた。
唇の温度が、唇に渡る。
そっと、そっと。

明日になったら、イナと二人で、僕らはこの場所から逃げ出す。
町外れの神主様が、手伝ってくれると言っていた。

大丈夫、全て、うまくいくよ。