タバコを燻らせると
はまざのにおいがした。
はまざの好きだったタバコだから。

「はまざぁ」

ぽつりとつぶやいて
そんな自分に嘲笑が浮かぶ。
らしくない。
いつまで彼の言葉を気にしているんだろう。

「男同士ってさ、気持ち悪いよな」

はまざの真似をして、つぶやいてみる。
はまざの目はしっかり俺を見ていた。
きっと気づいていたんだ。

「ちきしょ…」

笑いながら、タバコを深く吸う、
心のそこまで。はまざの匂い。

いい匂いだ。

オナニーでもしたくなって、
そっとズボンのチャックに手をかけるけど、
思い悩んで止める、
今したら、なんだか、はまざの声が消えなくなりそうだ。。

その代わり、タバコをもっと深く吸った。
夕暮れの赤い雲に、煙が吸い込まれていく。
これがはじめての、タバコ。
はまざのタバコ。

「どってことないじゃん」
「そうか」

いきなりはまざが影から出てきて、
ぎょっとなった、慌ててタバコを片手で持つ、
髪をかきあげると、はまざが笑った。

「はじめての煙草か」
「んだよ、いるならいるって言えよ」

はまざの長い髪を、風がすり抜けていく。
どきどきしている。

はまざが一本、煙草を取り出した。

「火」
「…んだよ」

それでも立ち上がって、ライターで火をつけてあげる。
愛してる。不意に言いそうになって口ごもった。
なんだ俺。

さっきまで、何呟いていたっけ。
聞こえたかな、はまざ。
聞こえなかったかな。

黙って二人で煙草をすった、
すうすう。
すうすう。
煙がのぼっていく。

「はまざ…」
「ん…」
「呼んでみただけ」
「そう」

はまざが微笑む。俺の好きな顔で。
煙草をぎゅっと消して、笑って見せた。

「ちょい煙草とってみ?」
「ん?」
「いいからさ」

何しようとしているのか、
自分で自分が分からない、ただ心が。
心が、どきどきしすぎて。

はまざが煙草をとる。その唇にキスした。
ぽかんとした、顔をした。

「へっ」

笑うとはまざがんん、とうなる。

「キス初めてかよ」
「お前とは初めてだな」
「当たり前だろ」

んーとか言いながら、はまざがふわっと笑った。

「お前、男同士キモイとか言ってなかったっけ?」
「んなん、はまざが言ったんだろ」
「ああ、そうか」

「そうだよ」


あーこれで終わりだなー。
そう思いながら、なんだか泣きたくなって
ぐっとこらえると、
はまざが俺の肩を抱いた。

「…なんて言えばいいか、分からないけど」
「んだよ、ひっつくなよ」
「好きだよ」

「…」

男同士きもいんじゃなかったっけ、って言おうとしたら、
キスされた。

「お前さ、慌てる時髪かきあげんのな
いつもさ…。
脈ありだなーこりゃってうれしくなったよ、俺」

ぼーっとしながら、
はまざの声を聞いていた。ちきしょう。

そう言えば、はまざがあの言葉を言ったとき、
俺おもっくそ髪かきあげてたなぁ。