そんな風にしか生きれない。

手を見ると、少しだけ血がにじんでいた。
あの人が齧った痕。

泣くことも出来ない。
泣ける人はまだましなのだ。
そう気づいたのは最近だ。

泣けなくなってから
もう随分経つ。

「血清屋」として、もう随分経つ。

 流れでる血を売り
 吸血鬼や淫魔のものとなる

誰かの声が聞こえる、

 まぁいやね、血清屋よ
 血がにじんでる
 気持ちわるい
 はやく、どこかに

なんでこの職を選んだか、
もうおぼえていない。
ただ、父がこの職を嫌っていた。
だからなのかもしれない、
ただの、父への反発で。

あの人が齧った痕を少し撫でてみる
赤い私の血がゆっくりつかる、きもちい。
まるでこれが最後のように
まるでこれが愛しいように

いつだって
いつだって
あの人は齧る

金を払って、苦悩の顔をして、もう行くの、と言うまで。


ふらっと足取りが乱れた、
なんとか持ち直す、倒れてはいけない
―石を投げられるよ

見上げると赤い月だ
休んじゃいけない、たちあがれ、
戦いぬけ、この戦場
戦いぬけ、この孤独

どうしようもない孤独そうだ孤独だ私の中に巣を食ってるものは

あの人が何度愛してる、一緒にいようと言われても
あの人たちが何度私を掴んでくれても

恐いよぅ

そんな言葉が口をつきそうで、
黙って、むねの辺りを握り締めた、
ぎゅうっと、痛みが走った、

恐いよぅ






お父さん、何で殴るの?笑いながらさ、なんで嫌うの?笑いながらさ。
殴らないでよ。愛してるって何で言いながら、殴るの。




気がつくと、血が滴っていた、
涙がでるかわりみたい。そんな風に想って
そしたら泣いていた、

嗚咽が何度もついて
止まらなかった

ああ、泣けるんだ

そう想ったら、ふと、安心できた


人間なんだ、まだ、心があるんだ。



恐いよぅ


ちょっと口に出してみた、
泣きながら、携帯を取り出して、彼に電話をかけた

コールが三回

はい


あのね、私も愛していますよ、でも


続きが出ない





泣いてるの

泣いています

こっちおいで、それとも俺がそっち行くかい


恐いよぅ











泣き崩れると彼がその空間から出てきた
あ、馬鹿だこの人、私なんかのために、魔力使ってやんの

恐いよぅ

恐いですか

恐いよぅ

そっと、決して強くないのに、そっと、
抱きとめてくれた、涙を舐めてくれた

恐いよぅ

ん…








あのね、愛していますよ


冷えた心があったまるぐらい、
近くに彼の心音

恐かったら、助けを求めてくださいね

そう言って笑った。