時折胸が痛いことがある。

「ああ、うん」
電話口でたーちゃんは愛していると呟いていた。
どれほど愛されても
満たされない時がある
どこか風がひゅうひゅう吹く。

愛してるんだ
たーちゃんが言う。
「ああ、」
生返事をもう一度して、
窓にうつった僕は大変虚ろだなぁと想う。

「じゃあ、切るから」
告げてかちゃりと受話器を置く。
発作が起こった。
僕は時折、胸の痛みを感じる。
骨がきしむような、
骨が崩れるような。

痛みながら、胸を握り締め
息を止め、少し立ち止まった。

”あいしてるんだ ”

たあちゃんは真っ当だ。
真っ当に愛を語り
真っ当に生きる。
こんな暗い人間になんか、
触っちゃいけない。

にんげんになりたかった
出来れば、いつかにんげんになりたかった。

僕は昔虐められていた
他愛もない、靴を隠されたり、無視されたり、
そんな感じだったけれど

あれ以来、ひとになりたくてもなれない、
まっすぐ歩けない。

なんでたあちゃんと知り合っちゃったんだろう。

胸の痛みがようやく終わり、
立ち上がると涙が零れ落ちた、
あったかい、変な涙だった。

皆に愛されたかった

愛されたくてなんでもやった

あの時の痛みが。

神様神様、恨んでうらんでうらんでうらんで
もののけみたいになっちまった僕は
もう独りで立つことさえ出来ないのに。

ただ、

ひとでないと言われ続け

ただ

もののように扱われ

ただ


こんなに生きることが出来ない

「たあちゃん」

呟くともう一度涙が落ちた。
僕が僕の傷をまっすぐ見れるようになったら
僕が僕をきちんと認められたら
彼と対等に立ち向かえるだろうか。
あんな優しい人を傷つけず
依存せず、
立ち向かうことが出来るだろうか。


かみさま

かみさまに

いのっていると

むねのいたみがおさまります

かみさま


誰も傷つけない勇気をください


心を恐れない、勇気をください