「羽ー…、みしてよ」
「えーなんで」

本当は羽なんてただの上辺だけの言葉で
本当は、ただ家に呼びたいだけだった

きれいな髪をした魔界からの留学者は、
俺をただ一人認めてくれた
―優しい奴だった

来るというから取って置きのコーヒーを淹れたのに、魔界からの留学者は「こゆいのだめ」とかわけの分からない理由でそれを断った。

仕方がないので、隣に座る、俺だけコーヒーって、そんなわけにもいかない。

「あのさ…」

言った後にちょっと固まる。
少しの沈黙。

さっきまでテンション高かったから
気づかなかったけれど、

―緊張しすぎて。肩に力はいってる

ふふ、と他紙が笑った。

いきなり人の義手をなでた
「ひゃあっ」
びっくりして飛びのくと
「うわ、ひゃあだって」
笑う。

やめろよ
憮然として言うと、なんでときょとんとしている
それ可愛いじゃん、触らせてよ
失礼だ、可愛いとか言うな
なんで、俺、お前についてるそれ好きよ?

ぐっと。黙ってしまった。

しばらくとくとくとした沈黙が落ちる。

きれいな髪だ、他紙と言うのは当て字で、本当はこう書くと、書いて貰った言葉は読めなかったけれど、今でも大事に―お財布にとっておいてある。

さらさらの、綺麗な髪だ。


「はね」

「え」

「羽見たいんだろ」

他紙がいきなり服を脱ぎ始めた、慌てる
「なっちょっ」
「脱がなきゃ服やぶれんだろ」

なんだか面白そーに笑いながら
(くそ、俺がおたおたしてんのが楽しいんだ)
他紙はすっぽんぽんになった、ぼうっとした白い肌
それなのに適度に筋肉がついていて…綺麗

きれい

ばさっっと、赤い光が射した

驚いて目をつむると、「おい」他紙の声
「おい」「な。なに?」「なんで目、つむるんだよ」
「だ、だって」おそるおそる目をあけると、
柔らかな感触が唇に落ちた、目の前に他紙がいた

「うううううっわあああぅ」
「あはははは、逃げるなよ」
「やっちょったしっまって」
「可愛い、お前、ほんっと可愛い」

きゅうって抱きしめられる、
苦しい、心音と、息が詰まる
「たし…っや」
「ちゃんと見ておけって。おれ、羽見せんのお前が始めてなんだから」

他紙が後ろを向く、
柔らかな赤い翼が、部屋いっぱいにひろがっていた。


心音が、心音だけが流れる。
しんとした夏、暑い光の下
他紙は、何にも変え難い者のようにそこに立っていた

羽が、ふわふわたゆんでいた

何故か、涙が落ちた。

俺さ、見せるなら好きな人に見せたいなーって。

泣きじゃくる俺をなんでだよーなんでなくんだよーと笑いながらぎゅうぎゅうなでてキスして余計俺が泣いて、そんな風に、他紙は笑った。

また、泣けてきた。