無題

お師匠様、そろそろ一緒に空を飛びましょうよ、と言うと、
笑ってその羽でか?と、
人の羽をくいくい引っ張る。

そりゃちっぽけですが、
ですが、もう飛べます。

まだ無理だ。
かたほほにえくぼをくっつけて、
お師匠様が背中にちゅうをした。

「…………………!」

お前は本当に感じやすいな。
お師匠様は笑いっぱなしで、
僕の背筋をぞくぞくさせる、
指で羽をぽしぽし叩く

「まだ無理だ、軟膏塗って、もう少しよくなったらな」
「ぷぅ」

膨れて見せるともう一度背中にちゅうされた、
ぞくぞくぞく、と、体がしなる。

「んー」

お師匠様がくすくす笑いながら、
後ろから僕を抱きすくめた、ごめんな

…ごめんじゃないです

ごめんな

ごめんじゃないです


…ごめんな


あの日、悪魔がお師匠様を殺そうとした日、
お師匠様は逆らわなかった―僕は悲鳴をあげて―悪魔の背中に雹を降らせた

振り返った悪魔は真っ赤な目をらんらんと光らせて
僕に向かって―笑った

気づいたら、羽から血を流して僕はお師匠様の腕の中にいた
お師匠様は、泣きそうな顔で


思考を途切らせたのは、お師匠様の、小さな呟き


…くずれ、私が死んだら悲しいか?


答える僕をとても大事そうに、撫で付けた

くずれ


囁く声が
あまずっぱかった