狐の子

「私が狐の子なのは承知だ」

笑いながら里屋が言う
ちょうちんを持った手の、青たんこぶが、
先ほどまで男を殴っていたのだと、
雄弁に語る。

「お前も私が怖いのだろう」

「さてな、可愛いとは想うがな」

「…」

里屋の目がすうっと、細められる、
知ってる。
こういう目をするとき、
里屋はほんとうは、泣きたいのだ
泣きたいのに、泣けないのだ

母も父も分からない里屋、どれほどの

どれほどの寂しさを抱えているんだろうか

抱きしめたい、と、湧き上がる想いを、無理やりかき消した。

「里屋、泣きたかったら泣いていいぞ」
「誰が」

振り返った里屋に微笑んで見せた、
いっそ、誰より里屋に伝えたい

義弟でさえなければ、


里屋の目がすう、と大きくなって、涙がぽつりとあふれた


「ほら、泣き虫」

声を殺してなく里屋を、
抱きしめれば柔らかく、
強く湧き上がる劣情を、こらえた