小さな音をたてて、唇が離れた。
自称「じんじゃのぬし」どのは、
手でぱっと唇をおさえて、ごしごしぬぐった。

「なぜこんなことをするっ」

涙目になって俺に言う。
なぜ?

「神社の主どのがこんな可愛い男の子だとは思わなかったんでね、
挨拶だよ」
「ば、馬鹿にしてるな」
きゅううっとじんじゃのぬしどのの眉毛が下がった。
「ほんとなんだぞ、おれはぬしなんだぞ、
おまえなんかいちころなんだぞ」
「いちころ」
けたけたとわらう。
主殿が本当に怒ったという顔をして
―怒りすぎて泣きそうな顔になって
俺をにらみつけた。
「お前はいっつもここで女の股をまさぐってるだろう、
しってるんだからな、いやらしい、そういうのはいやらしいんだ」
「…デバガメのがやらしいよ」
「お、おれはぬしだからいいんだよ!!!」

うるさい口をふさぐように、
ぎゅうっとぬしどのをだきすくめると、
ぬしどのがはっと息をのんだ。
あったかい。
普通の少年に見える。
じいっとぬしどのがいきを殺してる。
見ると、少し早く吐息をつきながら、
目を閉じている。
「ぬしどのはじゅんじょうだな」
ついつい微笑みながら、そっと唇にもう一回接吻する。
あ、とぬしどのがつぶやいた。その口を割ってはいる。
お邪魔します。
心の中で謝って。







目を開けたとき、主殿は本当に泣きそうな顔になっていた、
もう半分泣いている。
ごめんごめんといいながら、いいこいいこと撫でると
ぽかっと頭を叩かれた。
「いったぁ…?」
「ばかにするな、こんなの、口付けっていうんだ、しってるんだからな」
生意気な口を聞く。
そのくせ手で唇を抑えてる。可愛い。
「へぇ、じゃあどんな時にするのかしってるの?」
「しってらぁ」
「どんな時さ」
「…すきーって思ったとき」
「すきーって」
笑うより何よりあきれてしまった、
デバガメしてるわりには主様はじゅんじょう。
「なぁ」
もういっかい引き寄せて、胸で抱きしめながら、
そっとほお擦りする。
「な、なんだよぉ、ばかにするなぁ」
どきどきしてるくせに、それでもがくこともできないくせに
強がりばかりいう
「もう女連れてこないからさ、
また姿見せてよ」

そしてキスさせて。


そういうと、主様がんーっともがきはじめた。
「だーめ、はなさないよ」
「すきっておもわなきゃ、こういうことしちゃいけないんだぞ」
「あーおれぬし様すきだし」

え?と主様が顔をあげた。
ファーストキスだったんだろ…、ごめんな。
心の中で謝ってもう一回キスした。

可愛い主様。