さざなみが流れてる
よせてはかえし
よせては、かえし

あいつの足元を、魚が流れ落ちる

「でな、その女がさ、言うわけよ
うわきものーって
うわきものーってさ、
はなから分かってたんじゃねーのかよって
女ってわがままなのナ」
あいつが煙草をすうっと吸って、ふっ、と吐いた

あいつが女の人の話をするたび
こころのどこかが、ちくりとする、
手をまっすぐに伸ばして、
波と砂の合間を歩いてみた、
あいつがそんな俺を見て、ちょっと笑った、
(気配がした)

振り返って後ろ向きで歩いてみる
「なにやってんだよ」
「雨降ってるからさ、
海入れないね」
「ここ遊泳禁止だろ、
雨降ってなくても入れないだろ」

タカと俺は、この浜辺で育った
去年、タカが東京に行くまで
ここで一緒に育った

「聞けよ、人の話」
「女の子のことばっか」
「お前も東京行ってみろよ、
女なんかごろごろしてるぜ」
まだ童貞なんだろ

タカが笑いながら、ポケットから携帯灰皿を出して
とんとん、と火を落とした

夕暮れに近い青。
タカのほほは赤く染まってる。

「俺おんなとセックスしたくないもん」
「いけないなぁ、食わず嫌いは
そんなんじゃ大人になれないぜ」
「タカは大人なのかよ」
「さぁて」
タカが急にしゃがんだ。
後ろ向きで歩くのも疲れて、
タカの元になんとなくのろのろ歩み寄る。
「銀の魚」
「…」
「まだいるんだな」
タカが両手でそっと海をすくった、
手の中で、小さな魚が躍る。
ぱしゃっと、タカが手をはなす。
魚が落ちる。涙が落ちた。
なんでだろう、
ただ、

悲しくて、

悲しくて、

「何で泣くんだよ」
驚いたようにタカが立ち上がる。
顔をおおうわけでも、逃げるわけでもなく
ただぽろぽろ涙をこぼす俺の肩に、
おずおずと手を落とす。

「どうした?波、おまえ、どっか痛いのか?」
「タカが、おんなの話ばっかするからだよ」
ぐしぐしとこすりあげて、鼻をすすった、
しゃがんで、海を見る。
銀色の海、ぎんいろのさかな

「なんで俺がおんなのはなしすると泣くの?」
タカもしゃがみこむ。
たばこ、と言うと、くわえていた煙草を
俺の唇にはさんだ。
そんなこと、して欲しかったんじゃない。
ただ、たばこを吸って、すうっと吐いた、
タカがちょっと不安そうに、まだ俺を見てる。
「タカが好きだから」

どきん、と心がなく、
どきん、どきん、
タカの目がまっすぐに俺を見てる、
恥ずかしくなってそらす、
「俺が好きなの」
「…」
「それって、ライク?ラブ?」
「帰ろう」

たばこをタカの唇に
はさみ返す。
唇が指に触れたとき、タカが俺を引き寄せた、
たばこが落ちる。



少し長い接吻から、はなれると、
タカが泣きそうな顔をして、
目をそらした。
「俺さ、お前と東京行きたいなーって思ってて
俺だけ東京行っちゃって」

寂しかった。

本当は寂しかった。

タカの顔をずっと見ていた。