「はい、血液」
「ん……」

今日も役所に行って
断られてきた吸血鬼は
寂しそうに笑いながら、
赤いボトルを受け取った。
泣いていたのか、
いないのか、
目尻がほんのり赤らんでいる。

「そんな落ち込むな、
ユンフェ」
「いや、
いつものことだから。
落ち込んでないよ」
「……顔が暗いよ」
自分用に買ったコーラを
かしゅっとあけて飲む、
炭酸がのどに痛い。


吸血鬼と人間は暮らせますか。
人間しか愛せない吸血鬼さん。
人間にばっかり恋する吸血鬼さん。

彼は幸せになれますか。

無言で夕日を見ながら、
ふたりでごくごく飲んでいた。
片方はコーラで
片方は血液で。

「吸血鬼、……辞めようかな」

冗談のように笑って言う。
辞めるのかー、
辞めれんの?なにそれ、
職業じゃないのに。

んふふって笑ったら、
足下ぺしって
たたかれた。

「本気だぞぅ」
「本気かよ」
「本気だ」
「俺、吸血鬼のお前すげー好き」

ぱっと俺を見上げて
―一瞬顔がぱあってうれしそうに輝いて
すぐ真っ赤になってうつむく、

「そんないぢわるなこと、
ゆうな」
「いぢわるじゃねーもん、
本気だぞぅ」
「本気か」
「本気だ」

ん……。
なんて少し寂しい声だして、
俺の足下に寄りかかる。

「俺も人間のお前、す、」
「す?」
すげー好き……かも
「聞こえねーよ」
「うるさいなっもうっ聞きなさいっ」
「聞こえないんだって」
「いいの。もう言わない。言ったもんね。
一回言ったもんね」
「んだそりゃ」

笑うと、なんかすげー可愛い顔でふわーって笑われた、
えへへーなんて言って。
男のくせに、吸血鬼のくせに、
なにより可愛い、そんな顔で。

「役所もさー、頭固いよな」
「固いね」
「固いよ、お前吸血鬼だって、
売ってる血しか飲まないのにさ。
結婚認めてくれねーなんて」
「ん……」

役所の話をすると顔が固まる。

「んー。」

鉄棒によっとのって、ぶらーんとぶらさがった。

「あんまに血ぃのぼるよ?」
「えへっへ」

ぐるん。世界もぐるん、て回る。

「あいしてるよ」

「ばっおま」

かあああって赤くなって、バカっバカっって
すっげー戸惑ってんの。慌ててんの。
あー……可愛いなぁ、
こいつと暮らしてぇ。
一緒に暮らしてぇ。

一生一緒にいたい。

でも今のまんまじゃ、
今のまんまじゃさー。

「人間しか好きになれないってさー
難儀だね」

「……でも俺、今すごい幸せだから」

ほんのり赤らんだまま、
血を飲みながら、
笑った、

悲しそうに、
愛しそうに。

この人は。
この吸血鬼は、

人間が好きで
人間の社会が好きで
馬鹿で
俺はこいつを守ってあげたくて

俺はこいつを、なんでもどうでもどうしても

愛して


死ぬほど好きだと

何度も言って


この吸血鬼が 幸せになるなら


なんでもするよ。あいらびゅ。


役所の友達は後少しで上司がうなづくから
もっともっと通ってこい。応援してるぞ。
なんて言っていた。
それはまだ話してない。

夕飯にでも言うか。ちらっと見たら、
夕日に見とれてた。
俺はそれに見とれた。

可愛いと思う。どうしても。

心ぜんぶ、もってかれてる。