初めて煙草を吸った時の事、
覚えてる?

聞くと、ん…と小さくつぶやいて
もう一度深く煙を吐き出した、
嘉一は不味そうに顔を顰め、
煙草を放す。

ラヂオからは言い訳をするなと歌う歌手の
きりきり声が響いている。
雨が静かに、静かに、降り続き、
ぽつ、とつ、こつ、と
たまに水滴が落ちる。

水温さえ感じられるほど
穏かな水の音が響いている。

「かいち」

ささやくと

なに、と渋い声で言う。
「なんでもない。」

背中に頬をあずけ、嘉一の心音を聞きながら
温もりを愛しながら
決して嘉一が僕を嫌っていないことを知る。
背中が、拒絶しない。

ゲイなんだ。

泣きながらつかまれた手を振り解き、泣きながら
あんたといると苦しい

さけんだのはずっとむかしのこと

嘉一は言った

ならおれもゲイになるお前を捨てられるものか
お前を捨てるぐらいなら
人生捨ててやる

ふうっと、嘉一の煙がうえにうえにのぼる
愛しい
この背中も
この体も
煙を吐き出す唇も

嘉一が急に振り向いて、僕をかきだいた、
もがくと暴れるな馬鹿、って言う。

柔らかな接吻がふる
くちびるに落ち、また消え。
手で抑えていると、あいしてるよ、とぽつり言われた。

「ええ」

「なんだそりゃ」

噛み合ってない会話すら、雨の音に消えていく

煙草の煙が、透明に消える
「愛してる」




真剣な声で


言わないで。


あいしてる。