思い出せば、夏の日、ずっと貴方に逢っていたような気がする。また明日逢うのに、何を書くのかと貴方は多分想うでしょう、自分でもそう想う。でもどうしても、どうしても貴方に伝えたいことが多すぎて、あんまり堪えきれず、こうして筆をとりました、一生懸命書きますが、伝わるかどうか。聞いてくれると嬉しいのです。

水澄虫が鳴いていますね、あれは先腹から来たものだと貴方は言って、私はそれを信じるべきかどうか、いまだ迷っているからそれがなんだか愉快です。

森でいろいろな話をしましたね。貴方の唇の動きばかり追って私は幸せだった。

いろいろな人に怒られましたね、中傷もやけにありましたね、私は母を亡くし、貴方は父を亡くし、ふたりきりでしたね、たくさんの人が貴方と私を嫌悪し、去っていきましたね。後悔していませんか。

私をまだ好きですか。

おかしいでしょう、何度もこの手紙を書き直していて、まだ躊躇している。貴方は私に私らしく生きろと叱ってくれた。あれは十五夜の夏でしたね。

暑くて暑くて私は泣いていた、草葉にしゃがみこんで、嗚咽して吐いた、人はすれ違い、どうも愛しているのに愛のためにすれ違い、どうしても憎むのでしょう。きっと信じられないでしょう。私が幸福であることを、言っても、信じないでしょう。

どうもおかしいのです、貴方に一時も会えないことがこんなに苦痛で、手紙はいいですね、貴方に伝えたいことを書いていると貴方がいる風に思える、心が痛いほど高まるのです。

あの時、貴方が来てくれなかったら、私は狂うかしぬかした。

誰に嫌われてもいいのです、誰に憎まれてもいいのです、あの時私は酷い痛みに襲われ無様に吐いていた。貴方が来てくれた。

何度書こうとしてもあの時の心が邪魔をしてかけません。

本音と言うのは照れくさいものですね。

あの時、祖母の言った言葉はなんでしたっけ。
覚えているのに、体が震えて書ききれません。
乗り越える術は、貴方にもらったはずなのに。


親不孝者。
おまえさえいなかったら
あの子は死ななかったのに

私は家を飛び出し、山まで走った、これでひとりになった、なにもかも失った。やっとひとりになれた。

貴方が来るまで繰り返し、闇を食んだ。私の心は真っ黒で、痛みすら愚鈍に飲み込んでいった。

貴方は嗚咽している私の背筋を黙ってキスして、ほほをすりつけた
だけどもうそれで十分だった

どういっていいか分からない

泣きそうなほど、ぬくもりが熱かった

泣きそうなほど、貴方の優しさでいっぱいだった

泣いていたのに、余計に泣けて

僕は文章が下手ですね、だいぶ長くなりました。

書くというのは難しいです、いつだって心は貴方に向かっているのに。


あいしています。

貴方がまだ私を愛してくださるなら、私は何も怖くない。

貴方に愛される私で居るために、何にも傷つかない。

あいしています。




ありがとう。

貴方がいてくれた、
神様がいるなら
それだけは奇跡だ。

明日逢ったときにこの手紙を渡します。返事はいりません。

ただ、キスしてください。

キスでいいです、貴方。


貴方へ。