玉
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2004
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ななう
ゆき
初めてあった日も
雪が降っていて
それなのに月が出ていて
夜で、
奇麗だった
暗くて、暗くて、寒くて
君は手のひらに息を吹きかけながら、歩いていた
赤いマフラーが地にふわりと落ちて
「あ」と言ったら「あ」と微笑んでつぶやいて、
マフラーを拾った
その時の、楽しいことが起こったというような
小さな瞳が、好きに、なったんだ
ぽたん、ぽたんと点滴の水が落ちる
湯島が林檎をむく、しゃりしゃりした音
僕は天井を見上げながら、
今夜も寒くなりそうだ、と考えた
「また来てる」
外を見た湯島が、小さく笑ってつぶやいた、
顔を向けると
「七愛(ななう)がさ
孔一が入院してから、毎日来てるよ」
「信じらんない」
「うん、自分でも信じてないじゃない。
見舞いなんて顔してなくてさ、
散歩がたまたまこっちの道だったんです、って目で、
ここ見上げてる。
俺がみてること気づいてないね、あれ。目悪いから」
そういうと、湯島はカーテンをしゃーっとひいた
「おい、しめるなよ」
「なんで?寒いじゃないか」
「だって…七愛が」
「来たかったらこっちにくるだろ、いいよ」
「でも…」
「バカ、寝てろ」
起き上がろうとした僕を、湯島は片手でとめた
11月の終わり頃から、僕は入院している
急性盲腸とかで、朝、急になった。らしい。
気絶していたのでよくわからない。
湯島や、七愛に会ったのは、冬にはいってからだ
「さむいなぁ」
歩きながら手をさする
その動作がおかしいと、幼なじみのうるは笑った。
サークルに向かう道すがら。
マフラーを落とした七愛を好きになってから、
同じ大学内で彼を捜すようになっていた
七愛が「温泉サークル」というものに入っていると知ったのは、
9月27日のことだった。
その日は土曜日で、「温泉サークル同好者募集」と書かれた張り紙に
彼の顔が微笑んでいた。
そっと添えてあった「代表者:木川七愛(きがわ/ななう)」の文字に、
ドキドキして、震えるほど興奮した。
あれから4日目。
そのサークルに、宮園得(みやぞの/うる)が入っているとわかり
これほどうれしかったことはない。
気心の知れているうるは、僕がそんなサークルに入りたがることを疑問に思いながらも、
快く承知してくれて、案内役と紹介役をつとめてくれた。
サークルは古びた校舎の一角にある、こぢんまりした部室で、
週に一度、水曜日に会合が行われるらしい。
七愛に会えるのだと、僕はわくわくしていた。
前日から眠れないほど。
「こんにちわー」
部室に入ると、うるは誰でも心を許してしまいそうな、穏やかな笑みを浮かべて、
たった一人、部室の真ん中に立っている背の高い男に挨拶した
「こんにちわ、うるちゃん。
七愛、まだ来てないよ」
振り返ると、さらさらとした髪が整った顔をなぞって揺れた
それが湯島だった。
湯島葵(ゆしま/あおい)は、突然入ってきた僕を、
拒絶するのでもなく、歓迎するのでもなく、
不思議なほど自然に受け入れた
妙に落ち着いていて、
興奮している僕の早口な質問にも、ゆっくりと一つ一つ答えてくれた
今思うと、落ち着かせようとしてくれたのだろう
「土屋(つちや)君は、なんでこんな寂れたサークルに入ろうと思ったの?」
呼んでくる、と言って、七愛を探しにいったうるに手をふりながら、
湯島さん(その頃はさんづけで呼んでいたっけ)が聞いた
「あ…いえ、特に理由はないんですが…、うるも楽しそうだし」
「ふうん」
なんだか妙に透き通っていて、そのくせ深い色をたたえた瞳で
湯島さんは僕をじっとみた
ともすればすべてを見透かされそうな気がして、僕は慌ててしまった
「い、いや、別に、その、温泉大好きで!!」
「へえ」
「登別トトカルチェだとかっほら、白くて濁ってて!!」
「登別カルルスのこと?」
「あ、そ、それです」
「ふふ」
湯島さんは笑った。僕は真っ赤になって首を振る
「よ、よく分ってないけど」
「うん、俺もよく知らないよ」
「そ、そうなんですか?」
「温泉サークルって、名前ばっかりで。
冬に温泉行くぐらいが活動内容だから、研究している訳じゃないんだ」
「はあ、温かそうなサークルですね」
湯島さんは急に頭を下げた
「!?」
「ぶっははははっははははははは、あ、あったかそうって君、ははははははは」
何を笑われているのかわからないけど、とりあえず一緒に笑う
「へへへへ、そうですね、へへへへ」
「ごめん、くく、かわいいね、君」
「へ!?」
「あ、来たみたいだね」
湯島さんが顔をほころばせた
その視線を追うと、うると手をつないで、七愛がいた
(
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雪が降っていて
それなのに月が出ていて
夜で、
奇麗だった
暗くて、暗くて、寒くて
君は手のひらに息を吹きかけながら、歩いていた
赤いマフラーが地にふわりと落ちて
「あ」と言ったら「あ」と微笑んでつぶやいて、
マフラーを拾った
その時の、楽しいことが起こったというような
小さな瞳が、好きに、なったんだ
ぽたん、ぽたんと点滴の水が落ちる
湯島が林檎をむく、しゃりしゃりした音
僕は天井を見上げながら、
今夜も寒くなりそうだ、と考えた
「また来てる」
外を見た湯島が、小さく笑ってつぶやいた、
顔を向けると
「七愛(ななう)がさ
孔一が入院してから、毎日来てるよ」
「信じらんない」
「うん、自分でも信じてないじゃない。
見舞いなんて顔してなくてさ、
散歩がたまたまこっちの道だったんです、って目で、
ここ見上げてる。
俺がみてること気づいてないね、あれ。目悪いから」
そういうと、湯島はカーテンをしゃーっとひいた
「おい、しめるなよ」
「なんで?寒いじゃないか」
「だって…七愛が」
「来たかったらこっちにくるだろ、いいよ」
「でも…」
「バカ、寝てろ」
起き上がろうとした僕を、湯島は片手でとめた
11月の終わり頃から、僕は入院している
急性盲腸とかで、朝、急になった。らしい。
気絶していたのでよくわからない。
湯島や、七愛に会ったのは、冬にはいってからだ
「さむいなぁ」
歩きながら手をさする
その動作がおかしいと、幼なじみのうるは笑った。
サークルに向かう道すがら。
マフラーを落とした七愛を好きになってから、
同じ大学内で彼を捜すようになっていた
七愛が「温泉サークル」というものに入っていると知ったのは、
9月27日のことだった。
その日は土曜日で、「温泉サークル同好者募集」と書かれた張り紙に
彼の顔が微笑んでいた。
そっと添えてあった「代表者:木川七愛(きがわ/ななう)」の文字に、
ドキドキして、震えるほど興奮した。
あれから4日目。
そのサークルに、宮園得(みやぞの/うる)が入っているとわかり
これほどうれしかったことはない。
気心の知れているうるは、僕がそんなサークルに入りたがることを疑問に思いながらも、
快く承知してくれて、案内役と紹介役をつとめてくれた。
サークルは古びた校舎の一角にある、こぢんまりした部室で、
週に一度、水曜日に会合が行われるらしい。
七愛に会えるのだと、僕はわくわくしていた。
前日から眠れないほど。
「こんにちわー」
部室に入ると、うるは誰でも心を許してしまいそうな、穏やかな笑みを浮かべて、
たった一人、部室の真ん中に立っている背の高い男に挨拶した
「こんにちわ、うるちゃん。
七愛、まだ来てないよ」
振り返ると、さらさらとした髪が整った顔をなぞって揺れた
それが湯島だった。
湯島葵(ゆしま/あおい)は、突然入ってきた僕を、
拒絶するのでもなく、歓迎するのでもなく、
不思議なほど自然に受け入れた
妙に落ち着いていて、
興奮している僕の早口な質問にも、ゆっくりと一つ一つ答えてくれた
今思うと、落ち着かせようとしてくれたのだろう
「土屋(つちや)君は、なんでこんな寂れたサークルに入ろうと思ったの?」
呼んでくる、と言って、七愛を探しにいったうるに手をふりながら、
湯島さん(その頃はさんづけで呼んでいたっけ)が聞いた
「あ…いえ、特に理由はないんですが…、うるも楽しそうだし」
「ふうん」
なんだか妙に透き通っていて、そのくせ深い色をたたえた瞳で
湯島さんは僕をじっとみた
ともすればすべてを見透かされそうな気がして、僕は慌ててしまった
「い、いや、別に、その、温泉大好きで!!」
「へえ」
「登別トトカルチェだとかっほら、白くて濁ってて!!」
「登別カルルスのこと?」
「あ、そ、それです」
「ふふ」
湯島さんは笑った。僕は真っ赤になって首を振る
「よ、よく分ってないけど」
「うん、俺もよく知らないよ」
「そ、そうなんですか?」
「温泉サークルって、名前ばっかりで。
冬に温泉行くぐらいが活動内容だから、研究している訳じゃないんだ」
「はあ、温かそうなサークルですね」
湯島さんは急に頭を下げた
「!?」
「ぶっははははっははははははは、あ、あったかそうって君、ははははははは」
何を笑われているのかわからないけど、とりあえず一緒に笑う
「へへへへ、そうですね、へへへへ」
「ごめん、くく、かわいいね、君」
「へ!?」
「あ、来たみたいだね」
湯島さんが顔をほころばせた
その視線を追うと、うると手をつないで、七愛がいた