遠い町で、風が吹いているみたいだ
今夜は嵐になるだろう。

素肌で、白愚の木の上に垂れ下がった鬼の子は、
右手で彼からもらった写真を見ている。
「彼」がかすかに―引きつった顔で―微笑んでいる
せいふのやくにん。そう言っていた、
君と会っていることを知られたら
多分生きていけねーんじゃねーかなぁ、
くすくす笑う顔が可愛くて可愛くて、
耳にかじりついたっけ。
彼から教えてもらったきもちいことも
彼の唇に吸い付くときの甘い心地よさも
どれも鬼の子にはなくてはならないものになってる、
ふたり、くっついて、ぴったりくっついて、
もうはなれられなくなればいいのに。

写真を白愚の木のうろにいれて、
起き上がる。
もうすぐ彼が来る、たっぷり甘えよう。
胸の中にひたいをつけて、ぐりぐりしよう。
彼がくすぐったがったら、押し倒して、
そして…。

さみしい。
独りでいた時は感じなかったのに、
彼といて、彼がいなくなると、
胸がきしむ。
彼がいないことが、身をひきちぎられたように、痛い

―…あ、いたいた
走ってきたらしい、
汗をかいて、彼がきた。
大柄な体、優しげなひげ、優しい瞳。

―おりといで。

途端に心は満ちる、とても温かな水のような何かで。
傷口も、透き間さえ、満たす。
嬉々としておりる鬼の子を、

彼は愛しそうな目で見ていた、


ねぇ、やくしょに辞表を提出してきたよ、
これから、ふたりで、やまでくらそう。

やまでくらそう。



彼が何を言っているのか、
鬼の子はいまいち分からない。
その唇にかみついて、
すき、と言った。

彼から教えてもらった言葉。


あいしてる。