―…なんでかなぁ。

曇り硝子にうつった自分は
情けなく涙を流してる。
冷たいほっぺに暖かく。
シユキが、そのほほをぺろぺろ舐める。

―…なんでかなぁ。


なんでこんなことになっちゃったのかなぁ。
シユキが明日町に行ってしまって
俺はひとりで取り残される、
この町から出るわけにはいかない、
父の残してくれた魔生田は、ここにある。

シユキを、なんでこんな風に、
ふたりでいなければいられないほど、
すきになってしまったんだろう

なんでこれほど、
シユキがこころをしめているんだろう

酒に酔ったふりをして、行くなと引き止めて、泣いてしまうほど。


まだまだちっせぇ時から
ずっとずっと一緒に暮らしていた、
唇に口付けしたのがきっかけで、

どんどん

どんどん

心を濡らしていった
曇り硝子の、温もりのように。


どっちがキスしたんだっけ
忘れちゃった、シユキ。
お前の唇、あったけぇなぁ、
こんな時でも、あったけぇのなぁ。

いくなよぅ、おれんとこいて、おれと暮らそうよぅ
無理と分かっていながら、何度も何度も哀願する、
シユキが笑う。

かえってくるってばさ。

うそだぁ。

うそじゃねーってばさ。

すきなの…おまえだけだって。

そんでキスすんのな、お前ずりーよ、
俺これじゃあひきとめらんねぇ、
お前頑固だもの、一回決めたら、絶対曲げネェもの。
畜生。

帰ってこいよ。

絶対ナ。

ぜったいな。


シユキ、かえってこいよ。