君が好きです。














ねぐらに戻ると
男は一人で酒を飲んでいた。
酔っ払ったのか、顔が赤い。
「やいのやいの言われたか」
何を考えているのか分からない目で
ちらりと私を見て言った。
「やいのやいの言われたな」
散々っぱら言われて、
さんざっぱら傷ついてきたのに
その傷がすうっと消えていく。
ああ、こいつが好きだな。
そんな風に想う。言葉にすれば
消えそうなほど。
恥ずかしいほど。
「こっちさこい」
杯をはなして、男が言った、
私は従順に近づく、
すぐに抱きしめられる、
舌がほほを這い、
そおっと唇に重なる。
「…・・・…」
ちゅ、って吸われて離れた。
男は魔物だ。
神の名を与えられたつよーい魔物。
出逢った時そう言っていた。

神に私が奉げられた時―…もう10年も前。

村人達の言い分はとどまることなく、
欲望のままに垂れ流される。
お前が指示すればあいつも動くだろう
無理です、堪忍してください
なんでだ、なんのためにお前をあいつに捧げたと―…

私はそのうちこの人に攫われ、
魔物となる。
そう言ってくれた。
まだ俺の血が馴染んでないから。
もう少し、な。

微笑む彼の顔を見るたび、ひたひたした
幸せなもので心が満ちる。
彼は杯を片手で唇に運びながら、
私を愛しそうに見ながら、
たまに接吻して、
たまに、

いとしいとか、

可愛いとか、

そう言う。




唇から酒が流れて、少し酔った。