僕のサンタは吸血鬼。

絶望の縁から這い上がったことがあった、
胸の傷は未だ癒えない。

「噛んでいい……?」
遠慮がちに「吸血鬼」が聞く、
僕をさらってきた人。
無表情に―よくわからないけど無表情だと言われるのだから、
無表情なのだろう―うなづくと、
手のひらをそっととって、撫でる。
愛しげに。
そおっと静かに、歯でかりっと、ひっかく。
血がにじむのをうれしそうに見て、
それをちょっとずつなめていった、
熱い快楽が手のひらから全身に走る、
ぼーっと見ていると、きもちい?って聞かれた。
うん。
そう。
不思議な笑みをする人だ。
優しいのに、どこか悲しい。
どこか孤独を帯びている。

人が信じられなくなったのは
いつの頃からだったろう、
心に闇を抱え始めたのは。

人間は見にくい。「醜い」のではなくて
「見にくい」何度心を知ったと思っても、
見知らぬ人に気づけば囲まれている。
気づけば他人だらけだ。

がんばってきた。
自分でもがんばったと思う。
人にすかれるため、進んで嫌われていたことをした。
ゴミを拾い、汚物を処理し、
誰もがいやがることをした。
いつしか人は、僕を便利屋と呼んだ。
うれしかった、人に認められたと。

あのむひょうじょうなおとこにたのもう
あいつならいやがりもせずなんでもする

人々の噂は耳に入らなかった

あれはにんげんじゃない
だからなんでもやるんだ
しごとがたのしくてしかたないんだろう
きしょくのわるいやつ
ちかづいちゃならないよ
ほら、もっとしごとをやったらどうだい

人々の噂は耳に入らなかった
気づいたら、孤独だった、
痛いほど人に裏切られ、
お金も体も何もかも吸い取られた後だった
疲労だけが残った。

泣くことも、笑うことも忘れていた。


あの闇から僕をさらった吸血鬼。

吸血鬼の唇が柔らかく手にくっつく、
ぴったり。かけてた破片を埋めるように。

「君と僕は似てる気がする」
吸血鬼が微笑む。
寂しさを宿して。
心がちくんってした。
「君は寂しいんだろ」
僕もだ。

そう言って笑った。

君が好きだ。
だからもう、寂しくない。

愛しいという感情が急にわき上がって、
僕は泣いた。吸血鬼がぎゅうっと僕を抱きしめた。
辛かったね、ってそう言ってくれた、
辛かったね。ん、大丈夫。
何もかも大丈夫。
君がここにいるなら、
僕もここにいるから。

ねぇ、言っていい?

言っていい?


愛してる。

あいしてる。

心臓がなってる。どくどくいってる。
吸血鬼の心音か、僕の音か。
ああ、まだ、生きていた。
そう思って、また泣いた。