「あーあ」
なんて言いながら、
ユグニシトルスの顔をそっと撫でる。
気持ち良さそうに、ユグニシトルスは微笑む。
「目……いた……」
「切れてるもん。ぽっちり」
「赤い?」
「赤い」
ばかなひと。
僕をかばって傷ついた人。

追われていたことを思い出して身震いする。
ユグニシトルスはつまづいて倒れた僕を抱き上げ、
崖の下に放った。

―吸血鬼は傷ついても立ち直ることができる。
―銀のもので傷つけられない限り。

「彼」らは、銀のナイフと弾丸をつめた拳銃をふりかざし
ジャスティスと叫びながら、
僕らを追い、追い続け。
ユグニシトルスは羽ばたいた瞬間、ナイフを投げられた。
背筋がぞっとした、

崖の下で息をひそめながら、
心臓が止まるかと思った、
ユグニシトルス。僕を気づかせないように、
羽ばたいて、反対方向に飛んでいった。
彼の血が火のように僕に降り掛かり、
僕は悲鳴を必死で押し殺した。

「あーあ」
なんか、泣きそうになって、
ぎゅうっとユグニを抱きしめると、
ユグニは苦しいよ、なんて言って
笑った、笑うなバカ。
そう言ったら、
バカっていうのが馬鹿なんだぞ。
そう言って、僕の胸のぽっちにちゅうってキスする、
ふざけるな。ふざけてない。ふざけてる。
ふざけてるよ。

ユグニ。

もう止めて。もうしないで。絶対しないで、
あんなこと、二度としないで。
死なないで。生きていて。
僕のそばにずっといて。

言葉はあふれそうなのに、
何も言えない。
ただ、傷ついた片目をちゅっとなめた、
ユグニはくすぐったそうに笑って、
僕のむねの突起をまたちゅっと吸った、

ユグニシトルス。


きみのためなら
このよだっててきにまわせる。

え、聞こえない、なに?
そう言ったら、君が泣かないといいな、なんて言う、
泣かないよ。俺が死んでも泣かない?
それは駄目。

なくとか泣かないじゃなくて。

駄目だから。駄目だから。駄目、だめ。
だめ。

不安になって抱きしめながら繰り返して、
駄目だから、だめだから
なくなよぅ、
だって駄目なんだよぉ
だめかぁ、
だめだよぉ。

死なないで。

それしか言えなかった、
何度も言いたいこと、あったのに、
それしか言えなかった。
死なないで。
そばにいて。

ユグニ。

君がいるなら、なんも望まない、
なんもいらない、死なないでほしい、
そんだけ、そんだけだからさぁ、

なくなよお、
おまえがいぢめるから

いぢめてないよ……、

ユグニが、そっと僕の腰に手をまわした、
きゅうって抱きしめられる。

きゅう。

ユグニ。

死なない。誓う。ここなら「彼」らもこない。
誓う。


一生傍にいよう。

一生、愛し合おう











誓おう。

誓おう。

ね。

ユグニの言葉を半分も聞いてなかった、
泣きながらずっと彼を抱きしめていた。
たとえ世界が君を認めなくても
たとえ世界が君の敵になっても

僕は君の味方だ。

ユグニ。人間から吸血鬼になった人。

僕の恋人。