売春夫

あらかた人の体を遊びつくすと、彼は出て行った。
噛まれた首筋は少しの熱をもって、痛い。
体が重くけだるく、目を瞑ると、ふ、と、
闇に途切れそうだ。
それでもなんとか起きあがると、
目の前の鏡台に、髪のほつれた男が見えた。

幸薄そうな男だ。薄い唇の横に、彼の跡がみずみずしくぽってりと、
残っている。

私をマックバーガーで買った男の、跡だ。

「うちこない」

優しい顔に、瞳が輝いていた

「いいこといっぱいしてあげる」


何日もゴミあさりしかしてこなかった私は
マックバーガーに食らいつきながら、泣いていた
ああ、私は買われるんだ、分かった、分かっていた

何も持っていなかった私
家族から捨てられ、捨てた私
もう、戻れない私

鏡から目をそらすと、乱れたシーツ、
不意に怖くなって、うずくまった

胸の一部が痛いんだ

むね?ここ?

あんたがいっぱい吸うから

ここ?痛い?

痛いんだ

布団の中で、キスされて、
僕はあの時、確かに、幸せの絶頂を味わった


知りたくなかった。

ぬくもりなんて味わいたくない、もう二度と味わいたくない
味わうたび、抱かれるたび、抱きしめられるたび、





ひざを抱えると、少し、肌のにおいがした

なんで、きたいなんかするんだろう


愛してしまうたび、なんで。
だめなのに、むりなのに、ぜったいにもう、

愛されないのに





彼にあいされたい



「なんだ、まだ裸で」


いきなりドアが開いて彼が入ってきた

ぎょっとして慌てて布団をかぶると、
その中にてを突っ込んで、お腹を撫でる
「ひゃはっは、やめっ」



「…な、清人、
……ここにいて、幸せか?」


手が、ゆっくり心臓まで届く

「お前が幸せならいいな

幸せに出来てるなら、いいなぁ」

ぎゅっと、我慢した、
唇を噛み締めなければ、甘い、叶わない言葉が出そうだった、
目じりがぼおっと熱くなる
意味の分からないことを言うな、と(少し震えた)いうと、笑ってつぶやいた


だってあいしてんだ