篠木君が、僕を怒った目で見てる。
いらいらしてるのが、分かる。

僕は地面を見ながら、篠木君の手のひらを見ながら
こらえようとして、こらえきれなくて
涙がにじむのが、我慢できない。

「だから、なんで泣くんだよ、桑町」
篠木君、凄く困った、―怒った声出して、
「桑町、なんで泣くんだよ、
教室でも、あんな、いきなり泣き出して
お前泣き虫つったって、ほどがあるだろ
俺なんもしてないだろ?いじめてないだろ、
桑町」
「やっ」
肩に手を置かれて、思わず身を避ける。
びっくりして。
篠木君が傷ついた顔をする
あ、あ、ちが、ちがう、とつぶやいても
もう後の祭り。

夕暮れの学校、
篠木君からの呼び出しの手紙で、
すぐ分かった、怒ってるんだって
だから謝ろうと思って、
口ではきっと伝えられないから、
手紙書いて、

だけど、全然どうしようもなくて、
手が震えて、どうしようもなくて、
書いた手紙も手の中でぐしゃぐしゃになって。

「……桑町」
悲しそうに篠木君がため息をついた、
ぽろっと涙がこぼれた、弱虫
昔からそうだ、何かあると泣いてばっかりで、
こんな自分が嫌いだった。
「ち、違うの」
息を吸って、なんとか篠木君の目を見る、
違うの
「僕、篠木君が好きなの」

ぼろぼろ涙がこぼれる、鼻水まで出て
ああ、みっともない
僕、世界で一番みっともない。

「しのき、くんが、だいすきなの」

「……」
篠木君がぽかんと僕を見てる、
僕はもう、もう、手が震えて、震えて
でもこれだけは、言わないと、いけなくて
「だから、話しかけられると、びっくりして……」
ごしごしと顔をこする、止まってくれ、涙
「泣いちゃうから、だから……」
「へぇ」
篠木君がニヤニヤ笑った、
バカにしてんだ、バカだと思ってんだ、
畜生、悔しいなぁ、こんだけ好きなのに、ちっとも伝わらない
「桑町、俺のことが好きなの」
「ん……」
もう一回流れ出た涙を拭う、
途端に抱きすくめられた、
何が起こったか分からない、
篠木君の舌が、ぺろりと僕のほほを舐めた。
目をぱちぱち、とする間もなく、
篠木君の唇が僕の唇に触れた、




びっくりした。







「俺もさ、桑町のこと、ずっと見てたよ」


さんざん僕をもてあそんだあと、
篠木君がそう言った。