玉
>>
絵
> 荒熱
荒熱
「…胸、触ってみますか?」
「なッ…や、ばか、やだよ、ふざけんな」
「とてもドキドキしているんですよ」
「……変なこというな」
白い羽が生えた少年が生まれたとき、
村は総出で喜んだ、神様の使いだ、神様の使いだ、
―とても愚かしい名前―勇者と言われていた私が、
彼の担い手となった。
羽はふんわり、朝日を浴びて、
柔らかな曲線を落としている。
彼の貧相な―それでもとても柔らかそうな唇が、
きゅっと寂しげに結ばれている。
「お前は変態だ」
「そうですね」
狩って来たいのししの肉をそぎ落とし、
乾燥させたものを口に運ぶ。
彼の、唇を追いながら。
少し動いた。
「すき、て、
ほんと?」
「胸、触ってみますか?」
おずおずと差し出される手を、
どうしようもない劣情で見ていた、
自分の中の荒熱を抑えるのに、必死だった。
いつから、彼が、
彼の声を愛しだしたんだろう。
私を侮蔑する彼、
私を嘲笑する彼
思い出せるのは、彼の瞳に揺らぐ、強い孤独だ
『獣を狩るの、嫌いか』
嫌いですね
『お前はいつも死にそうだ』
私が…?私以上の獣なんて、めったにいませんよ
『お前は人だ』
『おごった人だ』
獣を殺したくないなら
死ねばいい
お前が死ぬだけで
地球が救われるなら
向き合いも、逃げもしないで
惰性で生きているお前に
育てられたくない
鋭い目で、鋭い手のひらで、
獣を殺した私を叩いた、この人に
私はひざまづいて、泣いた
抱きしめてくれた
「いくつになりましたっけ」
「はたち」
「まだまだ小さいですね」
「おまえ、いくつだっけ」
「三十七」
「でけぇよ」
そっと、引き寄せると、胸に顔をのせて、目を閉じていた
あんまりいとしすぎて、壊したくなる程の感情を
今、知った
SS付き
2005-12-30
21:11:32
... 前作品「殿下」へ
... 次作品「竹毒」へ
玉
>>
絵
> 荒熱
Copyright © by mogiha(https://boys.ahito.com) All Rights Reserved.
「なッ…や、ばか、やだよ、ふざけんな」
「とてもドキドキしているんですよ」
「……変なこというな」
白い羽が生えた少年が生まれたとき、
村は総出で喜んだ、神様の使いだ、神様の使いだ、
―とても愚かしい名前―勇者と言われていた私が、
彼の担い手となった。
羽はふんわり、朝日を浴びて、
柔らかな曲線を落としている。
彼の貧相な―それでもとても柔らかそうな唇が、
きゅっと寂しげに結ばれている。
「お前は変態だ」
「そうですね」
狩って来たいのししの肉をそぎ落とし、
乾燥させたものを口に運ぶ。
彼の、唇を追いながら。
少し動いた。
「すき、て、
ほんと?」
「胸、触ってみますか?」
おずおずと差し出される手を、
どうしようもない劣情で見ていた、
自分の中の荒熱を抑えるのに、必死だった。
いつから、彼が、
彼の声を愛しだしたんだろう。
私を侮蔑する彼、
私を嘲笑する彼
思い出せるのは、彼の瞳に揺らぐ、強い孤独だ
『獣を狩るの、嫌いか』
嫌いですね
『お前はいつも死にそうだ』
私が…?私以上の獣なんて、めったにいませんよ
『お前は人だ』
『おごった人だ』
獣を殺したくないなら
死ねばいい
お前が死ぬだけで
地球が救われるなら
向き合いも、逃げもしないで
惰性で生きているお前に
育てられたくない
鋭い目で、鋭い手のひらで、
獣を殺した私を叩いた、この人に
私はひざまづいて、泣いた
抱きしめてくれた
「いくつになりましたっけ」
「はたち」
「まだまだ小さいですね」
「おまえ、いくつだっけ」
「三十七」
「でけぇよ」
そっと、引き寄せると、胸に顔をのせて、目を閉じていた
あんまりいとしすぎて、壊したくなる程の感情を
今、知った