こんな風に
ふたりっきりでいると
こころが
どきどきする。

まさひろは、遠くに見える町明かりを
ぼんやりした目で眺めてる。
その頬が、微かに微笑んでいる。

「ほら、十、あそこラブホテル」

細い指で指した。
ホテルなんか、どうだっていい。
ただまさひろの指を見ていた。

「綺麗だね」
「おまえどこ見てんだよ」

俺の視線に気づいて、まさひろが笑った。
「この町さ、男同士だと
する場所ないのな」

まさひろに近寄りたくて、
もっと呼吸を感じたくて、
傍に寄る。
くん、と鼻を鳴らすと、
まさひろがまた笑った。

「近すぎ」

「まさの髪の毛、オレンジの匂いすんね」

さっきお風呂入ってたから、
とまさひろは言った。
言って笑った。また俺の顔を見上げて、
ん?と笑う。

「あ」
「あ…」

雨が降り始めた。
白い、光のような落ち方。

「まさ、また濡れちゃうね」
「…ん」

急にまさひろが、俺の手のひらを握った。
びっくりしたけど、それでも
力をこめた、まさひろの手は
少し冷えていて、少し湿っていた。

「な…キス、しようか」