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大嫌い
「おっさん、なんか知ってんだろ?」
『ポルノ』を飲みながら―中身はウオッカだ。変なおっさんだ。この伯父も。―問いただす。
どこにも行かないから、と不安がるしじまを家においてきたので、
早く帰りたくて仕方ないんだが。
「……そうだな」
ぽりぽりと伯父が頭を掻く。『ポルノ』を飲みながら。
「俺は何も知らんよ」
「本当か?」
「いや、本当だ。それでわかった。
俺はさ、あの子見た瞬間から気に入っちまって、
『俺おまえが好きみたいだ、しじまちゃん』っていったんだよ、
そしたらあの子、ものすげー悲しい顔してさ、
それ以来ひとっことも俺にしゃべらねーの。
そうだったんだねぇ」
「ねぇじゃねーよ、どうするんだよ、
性格ゆがむぜ。あのままじゃ。しじま」
「…人生にゆがみも出るしな」
「出まくりだ。おれだって最初は……」
「ん?嫌いって言われて悲しかったのかな?」
「…………」
そっぽを向くと笑われた。糞じじい。
「じじいとばばあに関係ありそうだな……」
「事故で死んだって言う……?」
「ああ、借金ばかりのこして、しじまにも……
……多分だが、虐待していた」
「……」
「しじまに聞いてみろ。
そんで、」
「なんて聞けばいいんだよ」
「……考えろ。お前もおつむは軽くないはずだ。
兄貴と違ってな。」
だから俺は結婚を許可したんだ。
けらけらと、伯父は笑った。
そりゃ買い被りだ。俺はとっても頭が悪い。
そう、しじまを傷つけてしまうほど。
傷つけて、泣かせてしまうほど―……。
「…………」
午後6時。伯父さんの部屋を出てから3時間ちょっと。
無言で、しじまと俺は食事をとっていた。
今日は豆腐とみそのスープだ。
何でも異国の料理らしい。うまい。これはライスと食べるのだ、
としじまは偉そうに言った。
料理にかけちゃこいつはちょっとしたもんだ。
「……なあ、しじま」
うん?としじまが顔をあげる。
きょとんとした顔が可愛い、なんかドキドキする。
「嫌いって、どういう意味か、知ってる……」
「知ってるよ…。
あのね、ドキドキするの」
「どきどき?」
胸がね、痛いほど。
しじまはそう言って、胸のあたりをまあるくなでた。
「そんでこの人とそばにいたい、手をつなぎたい、って想うの」
「…………誰がその意味を教えたの?」
「母さんだよ。
私はお前がダイッ嫌い。ってよく、
笑っていってた。
そんで、お前も私が大嫌いでしょう?って。
最初子供だったから、意味がよくわからなくて、
お父さんに聞いたら、それは『愛してる』って意味だよって」
「…………」
「…………?さまな?
どうしたの?」
「いや、つづけて。
「?……
お母さんと一緒にいたかったから、いつも、大嫌い、って言ったよ。
そしたらお母さんは俺をな、殴るみたいになって、
お父さんといっちゃった。」
「…………………しじま、
悪い。」
「?どうしたの、さまな、
これおいしくない?」
「違う、そうじゃなくて……、
しじま……
『好き』が『愛してる』なんだ。」
「…………」
「『好き』が、『愛してる』なんだよ……しじま」
「…………」
想ったよりも、しじまは大丈夫そうだった。
そうか、と言った。
なんとなくわかっていたけどね、
さまなの態度とか、見てると。
そんで普通に食事を再開した。
俺はほっとした。
馬鹿だった。
夜、しじまは、初めて泣いた。
俺が風呂に入っている間に泣いていたらしい。
部屋に戻ったら、テッシュで顔を拭いながら、
泣きじゃくっていた。
俺に気づかず、ただ、泣いていた。
俺は思わずしじまの肩をひきよせて、ぎゅうっと抱きしめた。
どうしていいかわからなかった。
しじまが傷ついてる、いやで仕方なかった、
泣いてほしくなかった、泣き顔はみたくなかった。
「しじま、しじま、泣くな、なくな」
「さま、な、母さん……母さん」
「しじま、ごめん、ごめん、俺が悪かった、
俺が悪かった、泣かないでくれ、泣かないでくれ、
ごめん、ごめん」
「か、母さん……俺のこと、き、きらいだったんだなぁ」
えへへ、としじまが笑った。泣きながら。
俺まで泣けてきた。
そしたらしじまはすっごいびっくりした顔して
「さ、さまな、なに泣いてんのっ」
「お、おまえ、がっ」
涙がとまらなかった、みっともねぇ、
だけどしじま、しじま、お前悲しい、悲しい、
可哀想だよ、おれ、おれどうすりゃいいんだよ、
おまえのこと、慰めたいよ、おまえのこと、
いっぱい愛したいよ、おまえが泣くの、やだよ、やだよ俺
「なく、から」
「泣かないっなかないからっさまなっ」
「ちがうっなけっ」
「どっちなんだよっ」
「俺の胸で泣け!!!!!」
真剣に、本当に真剣に怒鳴ったのに、
しじまはぽかんと俺をみて、じっと見て、
その後で爆笑しやがった。
糞。もう絶対言わん。
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2005-01-26
17:02:37
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「おっさん、なんか知ってんだろ?」
『ポルノ』を飲みながら―中身はウオッカだ。変なおっさんだ。この伯父も。―問いただす。
どこにも行かないから、と不安がるしじまを家においてきたので、
早く帰りたくて仕方ないんだが。
「……そうだな」
ぽりぽりと伯父が頭を掻く。『ポルノ』を飲みながら。
「俺は何も知らんよ」
「本当か?」
「いや、本当だ。それでわかった。
俺はさ、あの子見た瞬間から気に入っちまって、
『俺おまえが好きみたいだ、しじまちゃん』っていったんだよ、
そしたらあの子、ものすげー悲しい顔してさ、
それ以来ひとっことも俺にしゃべらねーの。
そうだったんだねぇ」
「ねぇじゃねーよ、どうするんだよ、
性格ゆがむぜ。あのままじゃ。しじま」
「…人生にゆがみも出るしな」
「出まくりだ。おれだって最初は……」
「ん?嫌いって言われて悲しかったのかな?」
「…………」
そっぽを向くと笑われた。糞じじい。
「じじいとばばあに関係ありそうだな……」
「事故で死んだって言う……?」
「ああ、借金ばかりのこして、しじまにも……
……多分だが、虐待していた」
「……」
「しじまに聞いてみろ。
そんで、」
「なんて聞けばいいんだよ」
「……考えろ。お前もおつむは軽くないはずだ。
兄貴と違ってな。」
だから俺は結婚を許可したんだ。
けらけらと、伯父は笑った。
そりゃ買い被りだ。俺はとっても頭が悪い。
そう、しじまを傷つけてしまうほど。
傷つけて、泣かせてしまうほど―……。
「…………」
午後6時。伯父さんの部屋を出てから3時間ちょっと。
無言で、しじまと俺は食事をとっていた。
今日は豆腐とみそのスープだ。
何でも異国の料理らしい。うまい。これはライスと食べるのだ、
としじまは偉そうに言った。
料理にかけちゃこいつはちょっとしたもんだ。
「……なあ、しじま」
うん?としじまが顔をあげる。
きょとんとした顔が可愛い、なんかドキドキする。
「嫌いって、どういう意味か、知ってる……」
「知ってるよ…。
あのね、ドキドキするの」
「どきどき?」
胸がね、痛いほど。
しじまはそう言って、胸のあたりをまあるくなでた。
「そんでこの人とそばにいたい、手をつなぎたい、って想うの」
「…………誰がその意味を教えたの?」
「母さんだよ。
私はお前がダイッ嫌い。ってよく、
笑っていってた。
そんで、お前も私が大嫌いでしょう?って。
最初子供だったから、意味がよくわからなくて、
お父さんに聞いたら、それは『愛してる』って意味だよって」
「…………」
「…………?さまな?
どうしたの?」
「いや、つづけて。
「?……
お母さんと一緒にいたかったから、いつも、大嫌い、って言ったよ。
そしたらお母さんは俺をな、殴るみたいになって、
お父さんといっちゃった。」
「…………………しじま、
悪い。」
「?どうしたの、さまな、
これおいしくない?」
「違う、そうじゃなくて……、
しじま……
『好き』が『愛してる』なんだ。」
「…………」
「『好き』が、『愛してる』なんだよ……しじま」
「…………」
想ったよりも、しじまは大丈夫そうだった。
そうか、と言った。
なんとなくわかっていたけどね、
さまなの態度とか、見てると。
そんで普通に食事を再開した。
俺はほっとした。
馬鹿だった。
夜、しじまは、初めて泣いた。
俺が風呂に入っている間に泣いていたらしい。
部屋に戻ったら、テッシュで顔を拭いながら、
泣きじゃくっていた。
俺に気づかず、ただ、泣いていた。
俺は思わずしじまの肩をひきよせて、ぎゅうっと抱きしめた。
どうしていいかわからなかった。
しじまが傷ついてる、いやで仕方なかった、
泣いてほしくなかった、泣き顔はみたくなかった。
「しじま、しじま、泣くな、なくな」
「さま、な、母さん……母さん」
「しじま、ごめん、ごめん、俺が悪かった、
俺が悪かった、泣かないでくれ、泣かないでくれ、
ごめん、ごめん」
「か、母さん……俺のこと、き、きらいだったんだなぁ」
えへへ、としじまが笑った。泣きながら。
俺まで泣けてきた。
そしたらしじまはすっごいびっくりした顔して
「さ、さまな、なに泣いてんのっ」
「お、おまえ、がっ」
涙がとまらなかった、みっともねぇ、
だけどしじま、しじま、お前悲しい、悲しい、
可哀想だよ、おれ、おれどうすりゃいいんだよ、
おまえのこと、慰めたいよ、おまえのこと、
いっぱい愛したいよ、おまえが泣くの、やだよ、やだよ俺
「なく、から」
「泣かないっなかないからっさまなっ」
「ちがうっなけっ」
「どっちなんだよっ」
「俺の胸で泣け!!!!!」
真剣に、本当に真剣に怒鳴ったのに、
しじまはぽかんと俺をみて、じっと見て、
その後で爆笑しやがった。
糞。もう絶対言わん。