春の待ち人



あい

呼んだはいいけど、どうしていいかわからなかった
カーヤはベッドの上でもじもじと指を動かし、
男の行動を待った

男はカーヤを一目見たとたん、
眉をぴくっとうごかして、嫌悪の顔になった
それにはなれているので、気にはならなかったけれど、
男がいつまで経っても動かないし、コートも脱がないので
カーヤはだんだん焦ってきた

「どう、すればいんだ?」
舌足らずの口調で、手を見ながらカーヤが聞いた
男は嫌悪を隠さないで
「すきにしていいですよ、
どうしてほしいですか」
と淡々とつぶやいた
カーヤはドキドキした
本当に好きにしていいのだろうか?
やりたいことなら、無数にある
「じゃ……、ここに、服ぬいでねろ」

ベッドの上、
男の横にカーヤは寝転んで、
その裸を見て、つばを飲み込んだ
男の眉が、いっそ嫌悪でしかめられる

男の名前はフォル・フォーというらしい

そっとカーヤは、フォーの胸に手を置いた
心音が響く
カーヤより、少し高い感じだ
「へへ……」
顔が真っ赤になるのが分かる
カーヤは興奮していた
自分自身が起立して、
痛いほど高ぶっている

カーヤはフォーの乳首をつまんだ
フォーがぴくっと動く
嬉しくなって、何度もつまむ
でもその先は、どうしていいか分からない
自分のものをなんとかすればいいのは分かるのだけど
なんとかって……どういう風に?
「はっ……は」
カーヤはたまらず、フォーの乳首に口をはわせた
ちゅっちゅっちゅっと吸う
カーヤは夢中になっていたので分からなかったけど
フォーの顔は軽蔑で満ちあふれている

ちゅぱっちゅぱっと吸うたびに、
カーヤはどんどん高まっていった
先走った液が、自分から出ているのが分かった
目は陶酔で潤み、よだれでフォーの胸が汚れていった
あの人と、彼らはなんの関係もないから
こんな風なことは知らないに違いない
あの人と俺は他人だけど、
俺はあの人は昔、俺を愛してくれて、だからできるんだ、こんなことが
夢中になったカーヤはそんなようなことを考えていた
その考えが、余計にカーヤを熱くさせた

「はあ……あは……あは」
歓喜のあまり、半笑いになりながら、
カーヤはフォーの顔に自分の顔をよせた

フォーがぎょっとして、気持ち悪そうにカーヤを見返す

「はっ……はっ……たまん……ねぇ」
カーヤはフォーの唇に、接吻をした
へたくそな、歯のあたる接吻だった
カーヤは接吻なんか、初めてだったから

フォーが逃げる、
カーヤはそれを押さえつけて、追いかけようとした
がりりっと鋭い痛みが走って、唇から鉄の味が広がった
フォーが唇をかんだのだ
「ああっあうっああううううううっうっう」
瞬間、カーヤはいっていた
ズボンの中にどくっどくっと吐き出した
今までに無い恍惚感がカーヤの全身を支配した
「ふっうふううっうっううっ」
震えながら、最後までだしつくすと、
カーヤはどっと汗をかいて倒れた

フォーが起き上がる

「じゃ」
冷酷に言い放って、
立ち去ろうとする
「ああ、あ、ああ、
か、かね」
快楽の波に、どもりながらカーヤは言って
戸棚の上の用意してあった札束を指した
「どうも」
フォーは首を下げて、
札束をつかむと、振り返らずに扉に向かった
「ま、また呼ぶから」
フォーは答えずに去っていった

これがセックスか、愛のあかしか
カーヤは嬉しくて、微笑みながら、汚れたズボンを脱ぎ始めた
いつか、あの人としてみたかった、行為
もう、どんなに願っても叶わない、夢
まだ、俺を愛してくれる人がいる、

ひとりぼっちじゃない


そのことが、カーヤにはたまらなく嬉しく思えた

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