いっぱいいっぱい好きなひと



幸せになって

ちりり、ちりり、と携帯がなってる。
裸の細川のぬくもりを感じながら、
やっぱり裸のまんまで、三月とはいえ、
まだちょっと寒いので、布団を細川の肩までかけてあげて、
携帯をとりあげた、
細川は、あどけない顔ですうすう眠っている。
鼻が可愛い。唇も可愛い。
全部可愛い。もっかい食べちゃいたい。

「はい、もしもし、小江実春です」

父だった。
もう、ずっとずっと前に別れた父。
もう、ずっとずっと前に、
会わなくなって、心から、別れを告げた父。

細川の鼻をちょっとつついて、
そっと窓を見ると、
花びらがふっていた。
庭の桜の木が、白い白い、淡い鱗片を、
さあっとふらせて、
風がふくたびに、舞い上がる。
父に返事をしながら、
急に愛しくなって、細川を抱きしめる。
細川が、うん、とつぶやく。

父は、もう、卒業か、と言った。
就職は、決まったか。
好きな人はいるのか?
男か?
そうか。

今度、連れてこい。



俺は、もう、いいから。
いいから。

俺、俺幸せになりたいよ、父さん。
幸せに、なりたいよ。

細川、俺、お前のこと、好きだよ。
細川を、ゆずるを連れて行くから、
恋人だって連れて行くから、


幸せに、なっていいよね、
俺、幸せに


なっていいよね。


今の俺は知らないけど、
未来の俺は、10年後、
俺は細川の家に、養子として、家族として、
むかえられることになる。
細川のパパは、あっさりこんこんと俺らを許してくれて、
この国の政府は同性愛を認めてないから、
じゃあ、私のうちに養子になりなさいと言って。

そのとき、お父さんは泣いた。
泣いてくれた。幸せになれと。

細川は、ゆずるは、
ずっとずっとわがままで、
ずっとずっと、俺を好きでいてくれた
調獣士として、表彰されたのも、その年のこと。

でもそれは未来の話、
今の俺は何も知らない、
今は、


今は、
「うん……、じゃあ、来週、連れて行くね、
細川っていうんだ。うん、可愛い人だよ……じゃ、
ばいばい」

ちん、と携帯が切れる。
少し、ため息ついて、
細川のぬくもりをもっと感じられるように、ひきよせて、
そおっと唇に唇重ねる。
細川が、ちょっと起きたのか、俺にキスしやすいように顔を動かす。

愛してる。



愛してる。


雪のように、花びらがふっていた。
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