いっぱいいっぱい好きなひと



こくはく

落ち込んでいた次の日。
夜まで、俺は全然食欲とかなくて、
起きてはぼーっとして、
仕方ないからもう一回寝ようと、
布団をしいて、入ってはぼーっとしていた。
気がつくと、夜九時をまわっていた。
無性に細川に会いたかった。
全部嘘だと言ってほしかった。
くそ、俺は、いつから。
こんななよなよしたやつになったんだ。
でも細川、まだお祝いしてないじゃん、
俺の就職祝い、
お前が良かったね、って言ってくれないと、
俺だめになっちゃうよ。
「……」
ごしごしごしごしっと頭をひっかく
「……あ”ーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
しっかたねぇ、悩んでたってばかばかばかだ、
風呂入って、しょうがねぇ、これからどうするか考える。
全部それから。くそ、マケネェゾ。
がばっと起き上がった途端、
きぃんかあん、
チャイムが鳴った。

何か、細川がいるような、そんな予感がして、
そっと、あけると、
はたして涙で顔をぐちゃぐちゃにした細川が立っていた。

お、おれ、おれ

ほ、細川、ど、どうした?
なんかされたのか!?
どうしたんだ!?

慌てて、細川を招き入れる、
また何かあったのかと、心の底まで恐怖で冷えきった。
震える細川は、玄関から動こうとしなくて、

おまえが、俺、レイプされそうになってんの、たすけてくれてから、
俺、ずっと好きで……

しゃくりあげながら、細川が言う。
俺はなんにも言えなくて、びっくりしすぎてなんにも言えなくて、
ただ細川を見ていた。

お、おまえが、たけうぢ、ずきだから、
は、はなれようとしたら、
あ、あのCD

俺が竹内すきー?

またびっくりする、
そう、勘違いしていたの、細川

あ、あのCD聞いたら、たまんなくなって

細川がいきなり俺にしがみついて、ずずっと座りこんだ。
慌てて、細川をささえて、
なんか、なんか俺もう。

俺とつきあえよぉ。

細川が、ぼろぼろ泣く。
ぼろぼろ泣いて、鼻水まででて、
ああ、もう

俺が……好きなの?

う”ん……

細川が鼻水をすする。

あんな、やづ、だめだがら

あんなやつ?

たけうぢなんで、だめ、だめ。

細川が俺の胸にしがみつくように、服をひっぱった

お、おでのほが、おでのほが、おまでのごどずぎ

細川ぁ

みんなに言う、お、お前がボモだっで、
づ、づきあっでぐでなきゃ

ひいっく、と細川がしゃっくりした、
涙でにじんだ目で、俺の顔を見上げて、
じっと見て、じいっと見て、

つきあって。

小声で言った。

ほそかわぁ

たまんない、心いっぱい、いっぱい、悲しいんだか嬉しいんだか、愛しいんだか、
わけわかんない感情でいっぱいになって、
細川をぎゅううううっと力任せて抱き上げて、胸に顔を押し付けて、

ほそかわぁ、
俺だって、俺だってさあ、
お前のことすごい好きで、
ほそかわ、なんだって、もう
竹内、好きだなんて言ってないジャン、俺、
俺、俺、お前のことしか考えてないのに

細川が、ぽかんと俺を見上げる

え……ええ……

え、じゃないよ、
ほんとだよ、たまんないよ、おまえ、
おまえ、俺のこと好きだなんて知らなくて
ああ、くそ、どうしよう、
嬉しい、嬉しいよ、細川、
俺、なんかもう

ぽかんとしたままの細川に、無理矢理口づけた。
舌をいれて、思う存分愛撫する、
愛しくて、愛しくて、
心のままに蹂躙していたら、いきなり細川が強く、強く、
俺にしがみついてきた。
細川の呆然としていた舌が、
俺のと絡みだす。

「ん……っん」
「ん……」

はなれて、
目をあわせて、また口づけして、
「こえ、こえ、お、おれのこと、すきなの、すき、なの?」
「うん……しごく好きだよ、
もう、ずっとずっと前から好きだったよ」
「……」
「……」
「好きだよおぉ」
細川が力が抜けたように、ばーっとなきだした、
可愛そうで、可愛くて、可愛くて
「細川……なくなよぉ」
俺はもう、胸がいっぱいになっちゃって、
細川が愛しい、
愛しい、可愛い、愛しい、
ただ、抱きしめたまま、ずっとそうしていた、
ずっとずっと、抱きしめたまま。

細川が、胸の中で息づいていた。

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