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2004
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つきあかり、あのひ、なみだ
父
それから三日。
季志は寝てばっかりで、
悠も春も「何か」が迫っているのを感じていた
心の底ではじりじり焦っていたが、
表に出すこともできず、ただ「何か」がこないようにと願っている
そんな日のことだった。
「春、ここにいたのか」
聞いた瞬間、「あいつ」だと分かった
嫌らしい、毒蛇のような濁った声
庭でたき火をしていた春と悠は、声の主に振り返った
春の父親が立っていた、嫌らしい顔をして
止める間も無かった、
春の父は、春の襟首をつかむと、ぐっと持ち上げた
「おまえ、金をどこへやったんだい?
おまえがためていたカネ、あんだろ、
もってんだろ、だせ」
「ごめんな……さい」
春は、ただ謝った
その目は強い意志で輝いていた
「でもあれは僕のお金」
「てめぇの金なんてねぇだろーがっ!!!」
ぐいぐいと、男は春の顔を揺すった
鈍い苦しさに、春が顔をしかめる
「てめぇの親が払ってやったかねだろーが!!
おまえのものなんてなぁ、この世に一つもねぇんだよ!!!」
無言でじっと見ていた悠が、彼の腕をつかんだ
男の動きが止まる
「なっこっこの…」
「落ち着きなさい。
春は何も悪くない」
「悠、ごめん、悠、違うの」
「てめ、なんだ、この」
悠の手を外そうとして、男が春から手を放す
しかし、どんなに抵抗しても、悠の手のひらははずれず
それどころか骨がきしむほど強い力で、男の腕を静止させている
「いっってぇってめっ」
「悠っ悠、やめて、悠がっ」
悠がひどい目にあってしまう
言いかけた春を悠は片手で制した
「知っていますよ、杜さん、いえ、田畑さん。
この間ご離婚が成立なさったそうですね、
お気の毒です」
かあっと、男ー田畑の顔に血が上った
どす黒く、醜く染まる
「春は、あなたの『もの』ではない。
ずっと前からそうだった、
あなたが愚かであれ、春は許そうとしている。
立ち去りなさい。春はここで暮らす。」
目が飛び出るほど、田畑の顔は怒りに満ちていた
じろじろと、悠の顔を上から下まで眺める
嫌らしい視線だった
「てめぇ、ホモか」
かっと、今度は春の顔に血が上った
恥ずかしさとー田畑が一時でも自分の父親であったことの恥ずかしさと、
ひどい言葉で悠をののしったことに対する、怒り
「春のけつでおまんこしてぇってか、
だから春をかばうんだよな、ええ、ええ、ご高説はいただきましたよ
このきったねぇげすやろうが」
「げすはあんただろ!!!」
思わず春は叫んでいた
叫びだしたら止まらなかった
顔が真っ赤になって、耳たぶがじんじんした
「ぼ、僕はいいけど、僕の友達を傷つけたら……!!!」
「こんなやつに傷ついたり、しないよ、春」
くすっと、悠が笑った
綺麗な笑みだった。
「お引き取り願えますか?田畑さん」
じろじろと田畑が悠を見る
それすらも、春は嫌悪を感じた
田畑の視線なんぞで、悠をけがしたくなかった
「あーお取り込み中すまねぇな」
急に声がした、つるりとはげあがったおやじが、
ひょいひょいっと、面白い動きで、悠と田畑の間に割り込んでくる
「……!!!親父……!!」
「……神崎さん!!」
田畑と悠が同時に叫んだ
え!?という顔で、田畑が悠を見る
「あ、な、なんだ、神崎さんのガキ……いや、ご子息でしたか、
いやいや、俺のバカ息子がご子息になんかきったねぇことをしでかしたみたいで
注意していただけなんですよ、いや」
誰も聞いていないのに、田畑はべらべらとしゃべる
「悠、たまにはかえれーな、
とうちゃん寂しい」
無視して、神崎氏が悠に言った。
「寂しいじゃねーよ、なんでこんなとこにいんだよ」
「この人が案内してくれ、いうて来たから、とーちゃん、案内してきたんだよ、
仕事仕事、なぁ、カキ様」
見ると、おやじの後ろには、
プラチナの髪をした、強い目の女性が立っていた
カキ/チッチナ。一万年に一人と誉れ高い、仙術士。
春が、はっとなった。
「こんにちは、こっちが、春君?」
かああっと、別の意味で、春が真っ赤になる
「はい……」
「こっちが?えっと、春君のお父さん?」
「へ、へぇ」
妙な展開に、田畑は目を白黒させている
「ちょうど良かった。
中央警察の人が来てるよ
あんたに話が聞きたいって」
「中央警察?」
さっと田畑が青ざめた
悠の手を振り切ろうとする
「こんにちは」
カキの後ろに隠れていた、背の高いハンサムな男が一礼をした
「先日、ご離婚された奥様から、
いろいろお話をお伺いいたしました、
春君を虐待されていたそうで。
ご同行願えますか?」
「………………!!!」
「ささ」
悠が手を放した
代わって、ハンサムな男が、田畑の腕を握る
田畑はもうぐったりと力が抜けて、真っ青な顔で
男のなすがままになった
停まっていたパトカーに田畑をのせると、
男はウィンクをして、手を振った
パトカーが走り去るまで、春はぽかんと、それを見ていた
悠がそんな春の肩を抱いて、ほっぺにちゅっとキスをした
「わっ」
「ぼんやりしてるから」
「してるから……って、だめ、だめだよ」
春が真っ赤になる
「よかったな」
悠が優しく、つぶやいた
その顔をじっと見ていたら、だんだん目尻が熱くなってきた
泣きそうになって、口を真一文字に結ぶ
「あー見せつけんな、悠、
季志ちゃんはどーしたんだよ」
「季志は部屋で寝てるよ」
「そーじゃなくてよ」
ちっまぁいいや、とおやじさんが言った
「たたけばほこりのでる身だろ、
数年はぶちこまれるはずだ、ま、安心するんだね、春君」
くすっとカキが笑った
そうだった、彼女はなんのために、ここに来たのだろう?
無表情の悠の目を見て、
それでもその疑問を感じ取ったのか、カキが微笑んだ
「春君に呼ばれてね、
闇虫に憑かれている子がいるんだって?」
夕焼けがくる、少し前
たき火は燃え尽きようとしていた
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それから三日。
季志は寝てばっかりで、
悠も春も「何か」が迫っているのを感じていた
心の底ではじりじり焦っていたが、
表に出すこともできず、ただ「何か」がこないようにと願っている
そんな日のことだった。
「春、ここにいたのか」
聞いた瞬間、「あいつ」だと分かった
嫌らしい、毒蛇のような濁った声
庭でたき火をしていた春と悠は、声の主に振り返った
春の父親が立っていた、嫌らしい顔をして
止める間も無かった、
春の父は、春の襟首をつかむと、ぐっと持ち上げた
「おまえ、金をどこへやったんだい?
おまえがためていたカネ、あんだろ、
もってんだろ、だせ」
「ごめんな……さい」
春は、ただ謝った
その目は強い意志で輝いていた
「でもあれは僕のお金」
「てめぇの金なんてねぇだろーがっ!!!」
ぐいぐいと、男は春の顔を揺すった
鈍い苦しさに、春が顔をしかめる
「てめぇの親が払ってやったかねだろーが!!
おまえのものなんてなぁ、この世に一つもねぇんだよ!!!」
無言でじっと見ていた悠が、彼の腕をつかんだ
男の動きが止まる
「なっこっこの…」
「落ち着きなさい。
春は何も悪くない」
「悠、ごめん、悠、違うの」
「てめ、なんだ、この」
悠の手を外そうとして、男が春から手を放す
しかし、どんなに抵抗しても、悠の手のひらははずれず
それどころか骨がきしむほど強い力で、男の腕を静止させている
「いっってぇってめっ」
「悠っ悠、やめて、悠がっ」
悠がひどい目にあってしまう
言いかけた春を悠は片手で制した
「知っていますよ、杜さん、いえ、田畑さん。
この間ご離婚が成立なさったそうですね、
お気の毒です」
かあっと、男ー田畑の顔に血が上った
どす黒く、醜く染まる
「春は、あなたの『もの』ではない。
ずっと前からそうだった、
あなたが愚かであれ、春は許そうとしている。
立ち去りなさい。春はここで暮らす。」
目が飛び出るほど、田畑の顔は怒りに満ちていた
じろじろと、悠の顔を上から下まで眺める
嫌らしい視線だった
「てめぇ、ホモか」
かっと、今度は春の顔に血が上った
恥ずかしさとー田畑が一時でも自分の父親であったことの恥ずかしさと、
ひどい言葉で悠をののしったことに対する、怒り
「春のけつでおまんこしてぇってか、
だから春をかばうんだよな、ええ、ええ、ご高説はいただきましたよ
このきったねぇげすやろうが」
「げすはあんただろ!!!」
思わず春は叫んでいた
叫びだしたら止まらなかった
顔が真っ赤になって、耳たぶがじんじんした
「ぼ、僕はいいけど、僕の友達を傷つけたら……!!!」
「こんなやつに傷ついたり、しないよ、春」
くすっと、悠が笑った
綺麗な笑みだった。
「お引き取り願えますか?田畑さん」
じろじろと田畑が悠を見る
それすらも、春は嫌悪を感じた
田畑の視線なんぞで、悠をけがしたくなかった
「あーお取り込み中すまねぇな」
急に声がした、つるりとはげあがったおやじが、
ひょいひょいっと、面白い動きで、悠と田畑の間に割り込んでくる
「……!!!親父……!!」
「……神崎さん!!」
田畑と悠が同時に叫んだ
え!?という顔で、田畑が悠を見る
「あ、な、なんだ、神崎さんのガキ……いや、ご子息でしたか、
いやいや、俺のバカ息子がご子息になんかきったねぇことをしでかしたみたいで
注意していただけなんですよ、いや」
誰も聞いていないのに、田畑はべらべらとしゃべる
「悠、たまにはかえれーな、
とうちゃん寂しい」
無視して、神崎氏が悠に言った。
「寂しいじゃねーよ、なんでこんなとこにいんだよ」
「この人が案内してくれ、いうて来たから、とーちゃん、案内してきたんだよ、
仕事仕事、なぁ、カキ様」
見ると、おやじの後ろには、
プラチナの髪をした、強い目の女性が立っていた
カキ/チッチナ。一万年に一人と誉れ高い、仙術士。
春が、はっとなった。
「こんにちは、こっちが、春君?」
かああっと、別の意味で、春が真っ赤になる
「はい……」
「こっちが?えっと、春君のお父さん?」
「へ、へぇ」
妙な展開に、田畑は目を白黒させている
「ちょうど良かった。
中央警察の人が来てるよ
あんたに話が聞きたいって」
「中央警察?」
さっと田畑が青ざめた
悠の手を振り切ろうとする
「こんにちは」
カキの後ろに隠れていた、背の高いハンサムな男が一礼をした
「先日、ご離婚された奥様から、
いろいろお話をお伺いいたしました、
春君を虐待されていたそうで。
ご同行願えますか?」
「………………!!!」
「ささ」
悠が手を放した
代わって、ハンサムな男が、田畑の腕を握る
田畑はもうぐったりと力が抜けて、真っ青な顔で
男のなすがままになった
停まっていたパトカーに田畑をのせると、
男はウィンクをして、手を振った
パトカーが走り去るまで、春はぽかんと、それを見ていた
悠がそんな春の肩を抱いて、ほっぺにちゅっとキスをした
「わっ」
「ぼんやりしてるから」
「してるから……って、だめ、だめだよ」
春が真っ赤になる
「よかったな」
悠が優しく、つぶやいた
その顔をじっと見ていたら、だんだん目尻が熱くなってきた
泣きそうになって、口を真一文字に結ぶ
「あー見せつけんな、悠、
季志ちゃんはどーしたんだよ」
「季志は部屋で寝てるよ」
「そーじゃなくてよ」
ちっまぁいいや、とおやじさんが言った
「たたけばほこりのでる身だろ、
数年はぶちこまれるはずだ、ま、安心するんだね、春君」
くすっとカキが笑った
そうだった、彼女はなんのために、ここに来たのだろう?
無表情の悠の目を見て、
それでもその疑問を感じ取ったのか、カキが微笑んだ
「春君に呼ばれてね、
闇虫に憑かれている子がいるんだって?」
夕焼けがくる、少し前
たき火は燃え尽きようとしていた