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つきあかり、あのひ、なみだ
邪念~カキ~
カキは仙術の使い手。
悠は知らなかったけれど、
その道ではかなり有名な話に、
カキが闇病を治す、という噂があったのだ。
闇虫に侵されてから、
カキの噂を耳にしていた春は、
先日、自分のために、いつか、と思って貯めていたお金を家から持ち出して、
その金額をしたためた手紙をカキに書いた
曰く、
僕の友達が、闇病で、死にかけています
この金額で足りなければ、言ってください
どんなに高くても、お支払いいたします、
どうぞ、僕の友達を助けてください
春は、借金してでも、カキを呼んで、季志を助けるつもりでいた
季志の闇虫をゆっくりと見ていたカキが、顔を上げた
季志が不安そうに、カキを見る
春は緊張した顔で、カキの口が開くのを待った
悠と神崎氏も、春の隣で、固唾をのんで見守っている
「これは邪念だね」
「じゃ……ねん?」
意外なことを言われて、春が口を開ける
「誰かの邪念。
病気じゃないよ。春君のは病気だけど。
すぐなおるよ、こつがいるけど。」
「邪念って……なんですか?」
悠が不思議そうに聞く。
単語の意味は分かるけれど、それがどういう作用を及ぼして
こんなことになるのだろうか
「んー、例えばね、
いーさんとしーさんがいて、
しーさんがいーさんのことを
こうなってしまえばいい、
いい、いい、いい、って考えたとき、
しーさんが少し魔力が強くて、
想念の力が強いとき、
いーさんが本当にそうなってしまう、とか
そういうやつと似てるね」
「そんな、怖いこと、あるの……?」
「普通はない。だから珍しい」
ぱちん、とカキは手を叩いた
「季志君?
おぼえ、ある?」
「おぼえ……」
季志が考え込む
「おぼえー」
「なんかね、恋慕っぽい。横恋慕?
すごい強い恋心。
相手多分、気が狂うほどあんたが好きなんだよ、
でね、あんたが振り向いてくれたら、って
悲しくて、悲しくて、辛い感情が漂ってる。
あんたに向かう想いが強すぎて、
闇虫が、相手に行くかわりにこっちに来ちゃった、って感じ」
「……あーーーーーーーー」
急に季志が大声を出した
びっくりして、春が目をぱち、ぱち、としばたかせる
「わかった、あの子だ」
「ふったりした相手?」
「俺んとこ、
季志さん、季志さんってくっついてた子がいるんだ
季志さん、付き合ってる人いる?って聞かれて
悠のこと言ったら黙っちゃって、……」
「誰?」
悠が、そんなやついたのかよというように聞いた
「教えない。
だけどたぶん、あの子だとおもう」
うんうんと、季志がうなづく
「あのね、これね、思念返しすればなおるんだけど、
そうすると、相手の方にこれがいくんだよね、
季志君、そうなっていい?」
「いやだ」
きっぱりと、季志が言った
「そっかそっか」
嬉しそうに、カキが微笑んだ
「じゃ、ちょっと辛いけど、ひっぺがすわ。
死にそうに辛いけど、我慢してね
はい、他の人は出てって」
「し、死にそうに辛いの?」
春が心配そうに聞く
「心臓つかみ出すからね。
血を入れ替えないといけないから。
成功率はゴブゴブ。
臨死体験する人もおる」
「ええ」
「いいよ、春」
何かを決意したような、
さっぱりした笑顔で、季志が言った
「俺、死ぬぐらいなら五分五分にかける」
「……」
「思念返しもしたくない。
だったら、その方がいい」
にやーーーーーっと、カキが笑った
「いい子だにゃー、季志ちゃん」
「や、やめてください」
季志が耳まで赤くなる
「そのかわり、成功させてください」
「おげおげ。まかせとけ」
空は星が綺麗だった
季志の、悲鳴が何度もあがった
部屋に入ろうとするたび、悠が止めた
悠と神崎氏が止めた。
耳を塞ぎたかった
塞ぎたくなかった、
季志の悲鳴など、聞きたくなかった
だけど、季志が苦しんでいるのならば、それを全部見なければ、
いけない気がした
震えながら、春はじっと扉を見ていた
寒かった
悠も、そばで息をひそめているのを知っていたもう、何十分沈黙が覆っているだろう
自分の息づかいと、悠の息づかいと、
神崎氏のうろつく音だけが、聞こえている
早く、
と春は願った
早く、終わりに、して
突然、音がした
ぞぞーーーーっと言う音だった
春のおなかの闇虫が、ぎぃぎぃと騒ぐ
何かが起こっているのだ。中で。
ずざざざざ、っと、何かが蠢く音。
呪文も聞こえた
するどい、カキの声。
また、沈黙
がたんっっと、ドアが開いた。
その姿を見て、春は悲鳴をあげそうになった
真っ赤な血に濡れた両手をぶらさげて、カキが立っていた
「終わったよ」
凄惨な様子のくせに、なんともほがらかに、カキは笑った
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カキは仙術の使い手。
悠は知らなかったけれど、
その道ではかなり有名な話に、
カキが闇病を治す、という噂があったのだ。
闇虫に侵されてから、
カキの噂を耳にしていた春は、
先日、自分のために、いつか、と思って貯めていたお金を家から持ち出して、
その金額をしたためた手紙をカキに書いた
曰く、
僕の友達が、闇病で、死にかけています
この金額で足りなければ、言ってください
どんなに高くても、お支払いいたします、
どうぞ、僕の友達を助けてください
春は、借金してでも、カキを呼んで、季志を助けるつもりでいた
季志の闇虫をゆっくりと見ていたカキが、顔を上げた
季志が不安そうに、カキを見る
春は緊張した顔で、カキの口が開くのを待った
悠と神崎氏も、春の隣で、固唾をのんで見守っている
「これは邪念だね」
「じゃ……ねん?」
意外なことを言われて、春が口を開ける
「誰かの邪念。
病気じゃないよ。春君のは病気だけど。
すぐなおるよ、こつがいるけど。」
「邪念って……なんですか?」
悠が不思議そうに聞く。
単語の意味は分かるけれど、それがどういう作用を及ぼして
こんなことになるのだろうか
「んー、例えばね、
いーさんとしーさんがいて、
しーさんがいーさんのことを
こうなってしまえばいい、
いい、いい、いい、って考えたとき、
しーさんが少し魔力が強くて、
想念の力が強いとき、
いーさんが本当にそうなってしまう、とか
そういうやつと似てるね」
「そんな、怖いこと、あるの……?」
「普通はない。だから珍しい」
ぱちん、とカキは手を叩いた
「季志君?
おぼえ、ある?」
「おぼえ……」
季志が考え込む
「おぼえー」
「なんかね、恋慕っぽい。横恋慕?
すごい強い恋心。
相手多分、気が狂うほどあんたが好きなんだよ、
でね、あんたが振り向いてくれたら、って
悲しくて、悲しくて、辛い感情が漂ってる。
あんたに向かう想いが強すぎて、
闇虫が、相手に行くかわりにこっちに来ちゃった、って感じ」
「……あーーーーーーーー」
急に季志が大声を出した
びっくりして、春が目をぱち、ぱち、としばたかせる
「わかった、あの子だ」
「ふったりした相手?」
「俺んとこ、
季志さん、季志さんってくっついてた子がいるんだ
季志さん、付き合ってる人いる?って聞かれて
悠のこと言ったら黙っちゃって、……」
「誰?」
悠が、そんなやついたのかよというように聞いた
「教えない。
だけどたぶん、あの子だとおもう」
うんうんと、季志がうなづく
「あのね、これね、思念返しすればなおるんだけど、
そうすると、相手の方にこれがいくんだよね、
季志君、そうなっていい?」
「いやだ」
きっぱりと、季志が言った
「そっかそっか」
嬉しそうに、カキが微笑んだ
「じゃ、ちょっと辛いけど、ひっぺがすわ。
死にそうに辛いけど、我慢してね
はい、他の人は出てって」
「し、死にそうに辛いの?」
春が心配そうに聞く
「心臓つかみ出すからね。
血を入れ替えないといけないから。
成功率はゴブゴブ。
臨死体験する人もおる」
「ええ」
「いいよ、春」
何かを決意したような、
さっぱりした笑顔で、季志が言った
「俺、死ぬぐらいなら五分五分にかける」
「……」
「思念返しもしたくない。
だったら、その方がいい」
にやーーーーーっと、カキが笑った
「いい子だにゃー、季志ちゃん」
「や、やめてください」
季志が耳まで赤くなる
「そのかわり、成功させてください」
「おげおげ。まかせとけ」
空は星が綺麗だった
季志の、悲鳴が何度もあがった
部屋に入ろうとするたび、悠が止めた
悠と神崎氏が止めた。
耳を塞ぎたかった
塞ぎたくなかった、
季志の悲鳴など、聞きたくなかった
だけど、季志が苦しんでいるのならば、それを全部見なければ、
いけない気がした
震えながら、春はじっと扉を見ていた
寒かった
悠も、そばで息をひそめているのを知っていたもう、何十分沈黙が覆っているだろう
自分の息づかいと、悠の息づかいと、
神崎氏のうろつく音だけが、聞こえている
早く、
と春は願った
早く、終わりに、して
突然、音がした
ぞぞーーーーっと言う音だった
春のおなかの闇虫が、ぎぃぎぃと騒ぐ
何かが起こっているのだ。中で。
ずざざざざ、っと、何かが蠢く音。
呪文も聞こえた
するどい、カキの声。
また、沈黙
がたんっっと、ドアが開いた。
その姿を見て、春は悲鳴をあげそうになった
真っ赤な血に濡れた両手をぶらさげて、カキが立っていた
「終わったよ」
凄惨な様子のくせに、なんともほがらかに、カキは笑った