つきあかり、あのひ、なみだ



季志の諭し

雪が降っていた
あれから、もう三日も経つ。
季志はただ、生きていることだけが救いのように、
こんこんと眠り続けて、
今朝、やっと起きた
その間、カキもこの屋敷で暮らしていた

成功したんだけど、体力使ったからね、
そう言って、笑うカキを、信用するしか無かった
長かった、三日間。

季志が目を覚ましたとき、あまりの喜びで、
春は季志を抱きしめて、おんおん泣いた
今までのことが全部、よみがえって、
おんおん、おんおん、おんおん泣いた
季志は少し恥ずかしそうに、春を抱きしめかえした

それを見ていた悠も、ちょっと泣いていたようだった
春が振り返ったとき、目をこすっていたから

カキと悠が、季志の体力を取り戻すために、
精力のつくものを買ってくる、と言って出て行った後、
季志とふたりっきりで、ぼんやりと、闇虫のことを話した

闇虫を、季志に呼んだ、「彼」のことも、ぽつり、ぽつりと話した

「すっげーかわいい子」

「悠がいるっていったの?」

「うん、悠とつきあってるよーって笑って言ったら、
なんかぎょっとしたカオして、その後涙ぐんでた」

「ふうん……」

「熱っぽい子
多分それでだよな」

「どうするの?」

「カキに言われた。
このままじゃ、また繰り返すだけだって。
だから、きっぱり決着をつけなさいって」

「ふうん」

「……、ちょっと興味ある。」

「興味あるの?」

「うん、どしよっかなー」

ぽーんと、ベッドに季志が寝転んだ
くすくすと、春は笑う

温かな沈黙が、部屋を覆った
何もかも、解決した、安堵、
開放感、それと、なんだかわき上がってくる愛しさに、
春は顔がどうしようもなくほころんでしまって、
困っていた

「……春」

季志が急に、まじめな声を出した
うん?と春が顔を上げる

「春、お前、このまま、帰る気だろう」

「え?」

ぽかんと、春の思考が停止する

「悠に何も言わないで帰る気だろう」

そういうことか
かあっと、耳たぶが熱くなった

「だって……、悠は、季志の」

「お前、それは失礼よ?
俺に対しても、悠に対してもさ」

「……」

「好きなら、ちゃんと言ってからいけよ
そうしないと、許さないぞ」

「でも」

じっと、手が汗ばむ
どうしていいか分からない
悠と季志はお似合いだ、と春は思う
気がついたら、心の中、悠でいっぱいになっていた
でもそれは、

「いけない感情だ、とか思ってんじゃないだろーな」

「!!!」

図星をさされて、春は焦った

「言って帰れよ、
失恋しても、何しても、
俺は、気にしないからさ」

「……」

「お前も気にしなきゃいい。
ずっと友達でいたい。
それじゃだめなのか?」

「……んーん」

「じゃ、言えよ」

「うん……季志」

「なんだ」

「季志の馬鹿」

「なんだよー」

「簡単に言える訳無いじゃん」

「言えるさ、勇気が足りないだけ」

「うん、言えるね」

「どっちなんだよ」

「僕が馬鹿だってこと」

「お前、思考停止してるだろ」

「うん」

仕方なく、季志は笑った
どうしよーもねーな、って、笑った
春もつられて笑った
雪が、降っていた
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2004-01-17 838:59:59