つきあかり、あのひ、なみだ



7年後

「あれから7年かー」

悠がぽつりとつぶやく。
くすくすと、春が笑った
悠の言い方がおかしいと言う

「なにがさ」

最近富みに笑顔が増えて来た悠が、
目元、口元を緩めながら聞いた

悠の家は豪邸だった
春には豪邸に見えた
今日は春の晴れ舞台
悠の両親に、結婚の挨拶に来たのだ

7年。
めまぐるしく、時は過ぎた
あの後カキが来て、春の絵を気に入っている人がいるから、とか
変な話をはじめて、トントン拍子に呆然としている間に
春は画家になっていた
大して売れもせず、批判も来て、最初は苦しかったけれど、
だんだん固定のファンがついて、描けば少しはお金が入るようになった
デッサンなど、一から勉強し直して、
今でもそれを続けている。絵を描くことは苦しく、楽しかった
悠は実家の後をついで、マンション経営などをしている
管理が大変、とこぼしていた
季志は大学院に進んで、その後医者になった
この小さな町の腕のいい医者として、今は評判になっている

門の前で、立ち止まって、
悠に姿を確認してもらう

「かわいいかわいい」

よく見もせずに、悠は門を開けようとする

「もー!!!」

怒って春は、悠の腕をぱしぱしたたいた
そんな彼らに、不意に声をかけるものがあった

「悠、春!!」

「!」

「季志……!!」

驚いて、春が一歩近づいた

「なんでここに……?」

悠と春、7年経った今も
季志と交流は続いている
先日も会って、結婚する、という話をしたばかりだった

「俺も結婚するからさ」

「はあ?」

悠が眉をあげる。

「誰と」

「魁ちゃんと」

「!!!」

悠が目をまん丸くさせた

「そりゃ俺の弟じゃないか」

「うん」

季志がびりりりりと呼び鈴を鳴らす
はーい、という可愛い声が家の中から響いて
とてとてと誰かが歩いてくる音がした

悠の弟、魁は春も知っている、
最初は焼きもちみたいなのを焼かれたが、
話が合うので、だんだん仲良くなった、今では春も、
魁のことを可愛い自分の弟のように思っている
背が低いけれど、端正な面立ちは悠と似ていて、
冷たそうになる顔の割には、可愛いと思わせる子で、
上目遣いにものを頼まれたら断れそうにないような
そんな子だった

「季志ちゃん、来た?」

ひょこっと、嬉しそうな顔をして、魁が顔を出した
その顔に、満面の笑みで季志が答える

「来たよー、魁ちゃんさらいに来たよ」

「おとーさんかーさん待ってる、
おにーちゃんと春ちゃんもきたの?
はいってはいって」

「魁……?」

呆然とした顔のまま、悠が魁に尋ねた

「いつから季志とつきあってるんだ?」

「?
いつからだっけ」

「7年前から」

あっさり季志が言って、門をくぐった
呆然としたまま、つられて悠が門をくぐる
春も慌ててその後を追った

今年初めての、雪が降りそうな気配だった
そう言えば、明日は、季志と、悠と、あの屋敷に初めて会った日
思考が停止したまま、ふと、思って
春は空を見上げた

どんよりした雲の合間に、金色の光が射していた

闇虫を治す手段はただ一つ。
幸せになること。自分をとらえていた、悩みを消すこと。

春のおなかの傷は、もう、癒えている……
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2004-01-17 838:59:59