つきあかり、あのひ、なみだ



廃屋の風呂

驚いたことに、廃屋には風呂がついていた
温かいお湯につかりながら、また少し、春は泣いた
自分が情けなかったし、悠とあの闇虫の彼と
これからどのようなことが起こるのか、
悠がなにをさせたがっているのか、
検討もつかなくて、泣けた
お風呂はゆっくりと、春の涙を吸い取っていく
ここにもいたみかけた小さな窓があって
笑ったような三日月が見えた

「おい」

外で悠の声がした
びくっとして、春はすぐに湯船からあがった

「い、今あがるから」

怒らさないように、怒らさないようにしようと
春はそれだけを考えている

「いや、違う。
着替えを持ってきたから。
ここに置くぞ」

「う、うん」

春はとりあえずもう一度湯船に入った
鳥肌が立っていた
そっと、脇腹の辺りをなでる
そこには、あの闇虫の固まりよりは幾重も小さい、
春の闇虫が蠢いていた

(怖いよ……誰か……)

自分もいつかあんな風に固まりになるのだろうか、
いや、そうなる前にこの廃屋で死んでしまうのかもしれない

春は自分を抱きしめるようなポーズをとりながら、
月を見上げた

ただ冷酷に、月は光っていた
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2004-01-17 838:59:59