春の待ち人



かいらく

ゆっくりと、ユナが唇をカーヤの唇にはわせる
あまりの快楽に、カーヤはほとんど意識を失いながら、
ぜいぜいと、何もできずにいた

ユナの愛撫で、カーヤは既に二回達していた
ユナは部屋に入って来た時、カーヤに微笑みかけて、
よろしく、と言った
そんな風に微笑まれたことなど、ずっとなかったカーヤは
それだけでもうドキドキして、大変嬉しく思った
また脱いでもらって、ベッドに横になってもらって、と考えていたカーヤを
ユナはいきなりひきよせて、キスをした
カーヤの頭は真っ白になった
唇に接吻、一番最初に、フォーに噛み付かれた時より、
したことはない
驚いて固まっているカーヤに、ユナは優しく、心地よく唇をはわせた
次の瞬間カーヤはユナを押し倒して足に自分のものをすりつけて、射精していた
こんな風に、暖かい優しいキス。何度も何度も夢見ていた、接吻。
カーヤはあまりの嬉しさに、悲鳴のようにあえいだ。
いった後もぜいぜいとユナの足に押し付けるカーヤを、
ユナは不思議と落ち着いた笑みで見守っていた
もうなにもかも分からなくなって
カーヤはぐちゃぐちゃになって泣きだした、
その体をユナ両手で抱き上げて、ベッドに横たえさせ、驚いたことに、もう一度接吻した、
カーヤは嬉しくて、嬉しくて、幸せで幸せで、へたくそな舌使いでユナの唇を夢中で吸った
歓喜に上下するカーヤの胸をユナの手がはう
むずむずするような淡い快楽に、カーヤの体がびく、と反応する
そこに手を重ねられた時、カーヤは二度目の絶頂を味わった
ユナ、ユナ、と何度もつぶやいた
ユナはカーヤを抱きしめてくれて、その上、またキスをした
カーヤは幸せだった

例えユナが、お金のために来た売夫で、
カーヤを愛していないにしても、
今、カーヤは愛情を感じていた
偽物だとしても、カーヤは幸せだった


眠っていたらしい。気がついたら、カーヤはベッドの上で、
隣にユナが横たわって、目覚めたカーヤに、おはよう、と言った
三度いったところまでは覚えている、その後の記憶が無い。
「カーヤ、もうどろどろだったから、
続きはやめておきました。大丈夫ですか?」
「……ユナ」
カーヤは不意に涙がにじんだ。
目が覚めて、一人きりじゃないと言う幸せ
心配される幸せ
カーヤは今までで一番、幸福を感じていて、
ユナに愛されていると、錯覚を起こしていた
「ユナ……、あれ、セックス?
あれがセックスなのか?」
フォーと幾重にも違う、ユナの愛情
あれが愛の行き来というなら、納得がいく
とてつもなく気持ちよくて、幸せな行為だ
「……違うよ、セックスはまだしてない」
「……違うの?」
びっくりしてカーヤはユナをまじまじと見た
あれだけ気持ちがよかったのに、セックスじゃないとは
いったい本当のセックスになったら、カーヤはどうなってしまうのだろう
「……、カーヤ、フォ-とやってないんですね?」
「やってない?」
「セックス。」
ため息をついて、ユナが起き上がった
「私はもう行きます。
フォーを罰せねば。
誰であれ、お金をもらう限りは仕事をしなければならないのに」
「ゆ、ユナ」
カーヤはあわてて叫んだ、罰する?フォーを?
違う、違う、フォーが悪いんじゃない
「ち、違う、フォー悪くない、俺が悪いから、
罰せないで、罰だめ、だめだから」
罰というものをカーヤは知っている
冷たい牢獄に入れられることだ。カーヤの大好きだった人も、今罰せられている
そのためにカーヤは捨てられた
フォーがそんな目に遭うことなど、耐えられない
「……」
くすっと笑って、ユナはカーヤの頭をぽんぽんと撫でた
「大丈夫、
ひどいことはしないから」
「ほんと……?」
「ええ。
カーヤ、今日は二倍と言いましたけれど、
セックスはしていないから、いつも通りでお願いします」
「お、お金?」
「はい、ありますか?」
「あっちに……」
「まいどどうも」
にっこりと微笑んで、ユナはカーヤの指した戸棚に向かった
その後ろ姿を見つめながら、カーヤはなんだか寂しさを感じた
ひどいことはしないとユナは言った、それは信じられる気がする
安堵したとたん、ユナが行ってしまうことに、悲しさがにじみ出る
「ユナ、もうちょっといないか?」
「無理ですね」
「無理か」
「また呼んでください」
「う、うん!!!」
勇んでカーヤは返事をした
嬉しくて胸がつぶれそうだった
また呼んで、とユナは言った、また俺に会いたいのだ
「じゃあ、カーヤ、今日はこれで」
戸棚の上のお金をポケットに入れて、
ユナは挨拶をして、ドアから出て行った
ドアが閉まる音を聞きながら、
カーヤは今までに無いほど満ち足りた気持ちでいた
ユナに愛されている、とそう思った
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