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春の待ち人
てがみ(ルシュより)
「うん、上手ですよ」
ナイフとフォークをぎこちなくあやつって
カーヤが豚肉を切り分ける。
ほめてくれたユナの顔を見て、崩れたように笑った。
豚肉はでき合わせを買って来たものだ、冷えていてあまりおいしくはない
カーヤに「普通の」食材を売る店はもうあまりない
カーヤが買おうとしても、売り切れだったり、ゴミのようなものだったり、
なぜかはカーヤも分かっている
だけど今日は特別だから。
ユナがマナーを教えてくれるから。
何軒も回って、なんとか頼み込んで、売ってもらったのだ。
切れっぱしだけれど。
「お、おれ、上達した?」
カーヤがほほを赤らめて、ユナに問う
ユナは微笑みながら頷く
「ずいぶん上達しましたよ、
もうどこに出ても恥ずかしくない」
実際カーヤは熱心な生徒だった
物覚えがいいとは言えなかったが、
集中して全て覚えようと一生懸命にやるので、
すぐに上達していった
ユナの言葉に、カーヤがくすぐったそうに笑う
「もうすぐおとーさんのとこ、いけるかな」
「……」
それには答えず、ユナはワインをとった
「もう一口、いかが?カーヤ」
「う、うん」
その時、かたん、と軽い音がして、郵便受けから
白い紙が落ちるのが見えた
カーヤが驚いて立ち上がる
「??
手紙?」
「……、誰からでしょう?」
カーヤに手紙が来ることなど、あり得ない
だそうという人など、いないのだから
カーヤは少しどきどきしながら、走って郵便受けから手紙を拾った
その表を見て、これ以上無いほど心が高まった
金色の紋が押してあり、
差出人の名前に、「ルシュ・エデン」と書かれていた
「パ、パパからだ!!!!」
思わず叫びながら、はあはあとカーヤは息をついた
ごくりとつばを飲み込む、
カーヤに手紙、あの人から、手紙
カーヤに、手紙。
「パパ?」
「パパ……ルシュ、ルシュ様、パパから……」
「……?」
「あ、ち、ちがう、パパはもういっちゃいけないんだけど、それは
あ、あのさ、これさ、
きっと、許してくれるってことが、書いてあるんだ、
なぁ、きっとそうだよな、な」
「……では、私はおいとましますね、カーヤ」
「え、な、なんで」
「『パパ』の手紙はひとりで読まないと、
許してくれるって書いてあるといいですね」
「……う、うん……」
カーヤはなんだか頭がぐちゃぐちゃになって、
嬉しさと少し悲しい感じと、期待に、もう何も分からなくなって
ただユナが去っていくのを見守った
ユナが微笑みながら手を振り、ドアがきっちりしまると、
ドキドキしながら、
机の横に立って、震える手で何回も失敗しながら、
手紙を開けた
開けた瞬間、カーヤは涙が噴き出すのを感じた
許してほしくて、許してほしくて、
ずっと許してほしくて
何度も謝った、夢の中で、空想の中で
たまにあの人の家の近くに寄るとき、
そこを見上げながら、何度も思った
許してください、ごめんなさい、と
お父さんと俺を、許してください
きっと、許してくれたんだ
カーヤがこれだけ思っていたのが、伝わったのだ
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「うん、上手ですよ」
ナイフとフォークをぎこちなくあやつって
カーヤが豚肉を切り分ける。
ほめてくれたユナの顔を見て、崩れたように笑った。
豚肉はでき合わせを買って来たものだ、冷えていてあまりおいしくはない
カーヤに「普通の」食材を売る店はもうあまりない
カーヤが買おうとしても、売り切れだったり、ゴミのようなものだったり、
なぜかはカーヤも分かっている
だけど今日は特別だから。
ユナがマナーを教えてくれるから。
何軒も回って、なんとか頼み込んで、売ってもらったのだ。
切れっぱしだけれど。
「お、おれ、上達した?」
カーヤがほほを赤らめて、ユナに問う
ユナは微笑みながら頷く
「ずいぶん上達しましたよ、
もうどこに出ても恥ずかしくない」
実際カーヤは熱心な生徒だった
物覚えがいいとは言えなかったが、
集中して全て覚えようと一生懸命にやるので、
すぐに上達していった
ユナの言葉に、カーヤがくすぐったそうに笑う
「もうすぐおとーさんのとこ、いけるかな」
「……」
それには答えず、ユナはワインをとった
「もう一口、いかが?カーヤ」
「う、うん」
その時、かたん、と軽い音がして、郵便受けから
白い紙が落ちるのが見えた
カーヤが驚いて立ち上がる
「??
手紙?」
「……、誰からでしょう?」
カーヤに手紙が来ることなど、あり得ない
だそうという人など、いないのだから
カーヤは少しどきどきしながら、走って郵便受けから手紙を拾った
その表を見て、これ以上無いほど心が高まった
金色の紋が押してあり、
差出人の名前に、「ルシュ・エデン」と書かれていた
「パ、パパからだ!!!!」
思わず叫びながら、はあはあとカーヤは息をついた
ごくりとつばを飲み込む、
カーヤに手紙、あの人から、手紙
カーヤに、手紙。
「パパ?」
「パパ……ルシュ、ルシュ様、パパから……」
「……?」
「あ、ち、ちがう、パパはもういっちゃいけないんだけど、それは
あ、あのさ、これさ、
きっと、許してくれるってことが、書いてあるんだ、
なぁ、きっとそうだよな、な」
「……では、私はおいとましますね、カーヤ」
「え、な、なんで」
「『パパ』の手紙はひとりで読まないと、
許してくれるって書いてあるといいですね」
「……う、うん……」
カーヤはなんだか頭がぐちゃぐちゃになって、
嬉しさと少し悲しい感じと、期待に、もう何も分からなくなって
ただユナが去っていくのを見守った
ユナが微笑みながら手を振り、ドアがきっちりしまると、
ドキドキしながら、
机の横に立って、震える手で何回も失敗しながら、
手紙を開けた
開けた瞬間、カーヤは涙が噴き出すのを感じた
許してほしくて、許してほしくて、
ずっと許してほしくて
何度も謝った、夢の中で、空想の中で
たまにあの人の家の近くに寄るとき、
そこを見上げながら、何度も思った
許してください、ごめんなさい、と
お父さんと俺を、許してください
きっと、許してくれたんだ
カーヤがこれだけ思っていたのが、伝わったのだ