ななう



きょうしつ


授業の終わった教室
人はまばらに出て行った
もううるしか、ここにはいない

窓の外には薄暗い景色が広がっていた
都会とは呼べない場所にあるから、
明かりがぽつり、ぽつりとしかない
教室は暖かいけど、外はきっとさむい

うるはぼんやりとその景色を眺めていた
お温泉に行ったのが、先々週だったから、
もう二週間も、誰にも会ってないことになる
七愛にも、孔一にも。なんだか会いたくなくて、
うるはサークルに行くのを控えていた

「うーる」
そんなうるに突然話しかけてきたのは七愛だった
驚いて、体を引く
図々しく、七愛はうるの隣に座った
いつの間にここに入ってきたのか
「なっんっ…なんだよ」
「サークルの会長として。
うる、このごろサークル来てないだろ、
だめだよー、ちょうど今日会合があるし、一緒に行こう」
「…!!やめろよ!!」
「なんだよ、うる、まだ怒ってんの?
俺らもう仲直りしたよー、
孔一が謝ったから」
「こういちが、あやまったの…?」
うるが目をむく
「うん、あんなことしてごめんって、おっかしいよね、あいつ」
なんだか寂しそうに、七愛は笑った
「行こうよ、うる、一緒にまた温泉行こう」
「……こういちが」
「うる」
「こういち…」
考え込んだうるを、七愛はじっと見ていた
急にかっと頭に血が上った
気づいたら、うるを押し倒していた
机にうるの頭がのっている
「なにすっちょっ七愛!!」
「こういち、こういちって、そんなにあいつが好きかよ!!!」
無理矢理七愛が、うるに口づけをする
うるが驚いて、なすがままになる
「はっ……は」
「……ななう?」
「うる…俺んこと見てよ…、
俺のほうが、おまえのこと」
七愛は荒い息をつきながら、うるのワイシャツに手をいれた
それではっと目が覚めた
うるが抵抗をしだす
「やめろっ七愛、何考えてんだっ」
「うる、なぁ、うる、俺と、俺と一緒に」
「七愛、やめろっこらっ」
「うる、うる」
七愛がうるの首筋に接吻した
次の瞬間、何が起こったか七愛は理解できなかった
腹ににぶい衝撃が来て、
気がついたら、机の合間に倒れていた
うるが上の方から真っ赤な顔をして、ぜいぜいと七愛を見ている
腹が妙にずきずきした
「そ、そういうのやめろよな!!
君はからかってるつもりでも…!!」
その後は言葉が続かない
絶句して、うるはばっと荷物をとって
大股に出て行った
腹が痛かった
殴られたみたいに
手で押さえながら、七愛はじっとうるが去った後を見ていた
ぴしゃんという、戸を閉める音も聞こえた
うるは出て行った
七愛は呆然としていた

七愛がうるを呼んでくる、と行ったままいつまでも戻ってこないので、
教室に迎えにいった
途中でうるが顔を真っ赤にして歩いてきて、
自分に気づかないで去っていったので
ああ、失敗したんだな、とわかった

湯島が教室に入ると、嗚咽が聞こえた
すぐにわかった、七愛だ
声のそばによると、果たして妙に明るい教室で、七愛は泣きじゃくっていた
「七愛…」
自分も悲しくなって、しゃがみこんで顔を見ると
七愛は目をおさえて、ぶんぶんと顔を振った
「お前も不器用だよな」
どうすることもできなくて、湯島は悲しい顔をしながら、
七愛のそばに座った
「う、うるがっ……」
「うん」
「すきになってっくれないっうるがっ…」
「うんうん」
「おれのがっすきなのにっどしてっ…」
「七愛が孔一をからかうからだよ」
「だってっ孔一きらいっ……」
「それは七愛がうるを好きだからだろ」
「いやっ…うるがっ」
いやいやと七愛が首を振る
湯島は七愛が落ち着くまで、
ずっとそばにいた
七愛はずっとずっと泣いていた
外が暗くなるまで
もっと暗くなるまで
ずっと泣いていた
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