ななう



またまたきょうしつ


部室に入ると、うるがいた
「おはよう」
と言って、はにかんで笑った
それだけで、すごくうれしかった
涙がにじむほど
七愛は涙を見せないように、背を向けて、コートを脱いだ
しばらく沈黙
だけど気まずい訳じゃない
お互い、何を言っていいのか、わからない沈黙
「うる…」
「七愛、あの」
「うる、あのね」
七愛がうるの隣に座る
言いたいことがあった、どきどきした
胸がつぶれそうだった
「俺、孔一と仲良くするよ」
「七愛、でも無理に」
「違うの、あのね、俺、俺、孔一そんな嫌いじゃないんだ、
えっとね、あの、仲良くするから、その、うる、その」
どきどきして手がふるえる
もっと怒るだろうか
それとも許してくれるだろうか
「うる…キス…して」
「……」
「あ、あの、はは、そういう意味じゃなくて、
あの、孔一とさ、ほら、仲良くするから、そう、取引だよ、取引」
「七愛は、それでいいの?」
溶けそうな目の色で、うるがそう言った
七愛は狂おしいほど、どきどきしていた
今すぐうるを抱きしめたかった
抱きしめて今までごめんなさい、と言いたかった
「うん…うるが、キスしてくれたら…それでいい」
「……七愛」
「してくれる?だめ?」
七愛が首をかしげる
たまらなかった
うるがうなづく前に、七愛はうるをひきよせていた
目を見ると、うるはなんだか泣きそうな顔をしていた
あ、だめなんだ、と思った
だけど止まらなかった
うるの唇に、自分の唇を重ねる
ゆっくり動かすと
うるがぴくってする
すぐに離れた
うるに嫌われたくなかった、
「ご、ごめん」
唇に余韻が残っている
「はあ、ごめん」
涙がじわじわにじみ出た
声が震えた
「ごめん、なんか、はは、すっげうれしい、俺、はは、
なんか今うれしい」
「……」
「うるが、うるがさ、あの、初めて俺見たとき、
微笑んでくれて、それで、俺、あの時から」
「……」
「今日、孔一退院だろ、な、よ、よかったら、
うる、一緒に行かないか
俺、孔一と仲良くするし」
「……」
「うる、怒った……?」
「んーん……、びっくりしただけ」
「そ、そうよかった」
ほーっと七愛は顔をにじませた
「七愛でも、そんなに素直になるんだなーって」
「俺はいつでも素直だよ」
「そうかな」
「うん」
無邪気に七愛は笑う
うるに話しかけられることが、うれしくてたまらないのだろう
うるはなんだか、心に甘酸っぱいものがわき上がるのを感じた
なんだかそれで、自分に戸惑ってしまった

それがなんて言う感情なのか、わからないまま、
うるは七愛を促した
「行こうか、迎えにいくんだったら、そろそろ行かないと」
「うん」
七愛は元気よくうなづいた
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