ななう



よるのみち


もうすぐ12時を回ろうとしている
明日はクリスマスだ
クリスマスが過ぎたら、またどこかに行こうか、と話しながら、
たったいま、うると湯島が、道を別れた
このごろ妙に優しい、七愛とふたりきりになる
不意にどきどきした、
そのくせ、妙に落ち着いていて、何を言うべきか、
何をするべきか、まるで星が巡るように、はっきりわかった

「寒いねー、本当に冬になっちゃった」
変なことを言いながら、はーっと手のひらに息を吹きかける
まるで、出会った頃のように
赤い手袋に、白いと息が絡んで消えた
凍るような月が出ていた
「七愛」
「うん?」
無邪気な瞳で七愛がこっちを見る
上目遣いのその顔が大好きだった
「おれ、七愛のことが好きです」
ぽかん、と七愛が口を開ける
「それぐらい知ってるけど」
「つきあってください」
「そうくるわけか」
くすくすと、七愛が笑った
「教えて上げる、あんたが好きなのは俺じゃないよ」
「へ?」
意外なことを言われて、こんどはこっちがぽかんとした
こんなにずっと七愛を見ていたのに、
なぜ僕が好きなのが、七愛でなくなってしまうのだろう
「っていうか、あんたと俺がつきあっても、長続きしないって」
「そうかな」
七愛がてくてくと歩くので
仕方なく僕もてくてくと歩く
「うん、俺、本気で好きにならないと、いじめちゃうから」
「あーわかるなぁ」
さんざんいじめてあげたものね、と言って七愛は笑った
「もうちょっと冷静になって、よく考えてみろよ、誰が好きなのかとかさ」
「七愛じゃないのかなー」
「ななうじゃないねー」
くすくす笑うので、
失恋した、という実感がわかなかった
空の月を眺めて歩いた
七愛のアパートは、僕のアパートと方向は同じだけど、僕の方が遠い。
「む、じゃあよく考えてみる」
七愛がアパートの門に入りながら、笑った
「明日までの宿題にしておく?」
「うん」
風がぴゅーーーーっと吹いた
七愛の髪の毛が、巻き上がって揺れる
熱かったほほが、冷たさで心地よい
「お休み」
「お休み」
なんだか、僕は満足していた
「あ、そうだ」
行きかけた七愛が振り返る
「今度さ、湯島とやってるとこ見せてよ、俺そゆうの見たことないから」
「やってるって…ゲーム?」
「バカ、違うよ、セックス」
「せっ……」
僕は絶句した
何を勘違いしているんだ、七愛は
「俺もそゆう知識を深めておかないと。
いつどうゆうことがあるかわからないし」
「ば、ばかいってんな!!そんなことしないよ!!」
「どうしてさ、あんたんちにあった本にいっぱい描いてあったじゃないか」
「どわっ!!!」
顔に血が上る
きっと湯気まで出てるに違いない
「それはこれ!!これはそれ!!!」
「あっはっは、慌てちゃって、かっわいーの、ばかだねー
うそ、ジョーダン」
「いっていいこととわるいことがっ」
「そのかわり、ソユウ本、今度見せてね、
買ってもいいんだけど、どれがいいのかわからなくて」
「あのな、七愛、あのな」
「んじゃねーばいばいー」
実にかわいらしい笑顔で、七愛は手を振った
何にも言えなくなってしまった
こいつは悪魔だと思う、ちきしょう
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