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いっぱいいっぱい好きなひと
デート
サマラナランランド。
舌を噛みそうなそのランドは、
休日なのに、人気がない。
ぽつり、ぽつりと、家族ずれや、
なんでこんなとこにいるのか分かりません、と言った顔のカップルが
たまにすれ違う程度。
細川が手をつながないとホモとばらすぞと脅すので、
二人で手をつないでその中を歩いた。
細川はこういう寂れた遊園地が大好きだ。
最後にはつかれて機嫌悪くなるくせに、よく俺やパパを誘っては遊びに来てる。
「小江、あめ買って。」
あめ売りの前で、細川が立ち止まって、嬉しそうに言った。
遊園地に来ると細川は大変嬉しそうになる。
だから、俺も遊園地が好き。
ほんとに嬉しそうな顔するって言ったら、
だって嬉しいもん、と細川は言った。
「ん?なに味?」
「んー、ちょこれーとの!!」
細川が、ぽにぽに手をさする、
なにかにつけ人の手をこすったり、スキンシップを求めてくるのは
細川の癖みたい。はいはい、と笑いながら、
なんだか俺細川の恋人になった気分で、チョコレートの棒形ねじりあめを2本買う。
一本210円。
「ねーあの子、すっげ可愛くない?」
嬉しそうにあめをほうばる細川をなんだか満ち足りた気持ちで見ていたら、
不意にそんな声が聞こえた。
またか。細川と歩いていると、たまにそういう声がかかる、
つまり、なんぱとかなんぱとかなんぱとか。
「隣にいる子もレベルたけーじゃん、
いいじゃんいいじゃん、
声かけてみる?」
「ええーどうするぅ?」
で、決まってこういう時に、細川は機嫌が悪くなるのだ。
案の定細川は顔を思いっきりしかめて、
「小江、行こう。ここやだ」
「あいあい。
次どこ行く?」
「あ、行っちゃうよ」
女たちが焦った声を出す。
「早く。違うとこならなんでもいいから」
怒ったように細川が強く言って、俺の手をぎゅうっとひいて、
駆け足でその場を離れた。
おっとっと。
細川どんどん走る、
「おい、転ぶぞ」
声をかけた途端、細川は足をつっかけて転びそうになった。
その胸を手でささえて、立たせる。
「もういいじゃん?細川、
あいつらもう追って来てないよ」
「……」
ムウッとした顔で、細川は俺の手をじっと見た。
「ん?機嫌悪くなっちゃった?」
「俺、俺のこと可愛いとかいうやつ、嫌いだ!」
ふふ、とため息みたいな笑みが漏れた。
「しかたないじゃん、細川可愛いもん」
「え……俺、可愛い?」
ちょっと微熱があるような、
潤んだ目でそうなのって顔で俺を見上げる。
唇がちょっとあいている。誘うように。
だめ、こういう顔されると、
たまんなくなる。ぎゅって抱きしめたい。
強引に衝動を理性で抑える。
大変なんだよ、細川君。
「可愛いよ。超可愛い」
「……」
細川が視線をそらせて、
耳まで赤くなった。
「ん?なんか熱ある?赤いぞ?」
「おまえが変なこと言うからだ」
「え?俺変なこと言った?」
「言うからだ!!!」
目をそらしたままで、細川が叫ぶ。
んんん?
「……なんだか、俺、細川のこと怒らせてばっかりだな」
ちょっとため息を漏らし、悲しい顔をする。
照れてるんだろ、分かってるけど、わざと気づかないふりしちゃうぞ、
ちょっとからかってみたい気分。
「ち、ちがう」
細川が慌てたように、俺の顔を見上げる。
光にあたって目がきらきらしてる。
「怒ってない……
俺、照れ屋だから、
お前にいろいろ言われると、て、て、照れちゃっうし
だから恥ずかしくて、
だ、だから……」
衝動的に、細川にキスした。
あ、みんなに見られてしまう、と想ったけど止まらなかった。
細川の柔らかい唇、強く抱き寄せると、
細川がきゅうっと俺を抱きしめ返す。
可愛いんだ、てれちゃう、だって、恥ずかしくて、だって
てれてたの、恥ずかしいの、かっあいいんだ。
「照れてたんだ」
離れて、ふうっと微笑むと
「そ、そんな変な顔すんな」
「んあ?へんなかおしてる?」
「や、やさしいかおしてる……」
「……」
もう、そんな可愛いことばっかりさ、細川さ、
ほんと、たまんないから、勘弁してよ。
「怒ったわけじゃないんだねぇ」
「お、おこってない」
細川が余計真っ赤になって、俺の手をぎゅうっと握りしめた。
「つぎ、観覧車のりたい……
いい?」
俺は微笑んだ。
観覧車から見える景色は、群青の海を遠くにうつしてる。
深いビリジアンの森々に、すうっと光があたり、
雲の影をうつして、またすうっと光る。
「……」
無言で細川はその景色に魅入っていた。
手のひらをぺったりガラスにつけて。
まるっきり、子供みたいに。
片方の手は、俺の手につながれていて、
俺がこちょこちょっとくすぐると、だめーっと言いながら、
手をぎゅうっと握る。
ようやく見飽きたのか、細川が俺の傍に座って、じっと今度は俺を見出した。
「なんでみてるんですか」
「手、噛んでいい?」
「いいよ」
たまに細川は、誰もいないとき、俺の手を噛んでいい?と聞いて、
噛む時がある。
昔から好きなの、噛みたくなるんだ。と、
なんで?って聞いたとき、そう言っていた。
好きなのって俺?って聞きたかったけど、違うよって言われそうで、
聞けずじまい。
許可をもらって細川は嬉しそうに、手をそおっと口に運んで、
舌でちょっと舐めて、口に含んだ。うっとりした顔してる。
細川の歯は力なく、柔らかく柔らかく俺を噛み締める。
あむ、と細川の歯があたる。
あむ、あむ。
細川、たまんないんだよ、本当は俺。
こんな風にされてさ、襲わない方がへんだって言うの。
でもいいんだ。そんな顔、見れるなら、
へんになったっていいよ、俺。
あむあむと思う存分噛み締めた、細川は、
やっと俺の手を放してくれた。
「べたべた」
そう言って笑って、はんかちを取り出して、俺の手をぬぐう。
細川に告白した時のことを思い出した。
高校2年の夏。
蝉の死骸がたくさん道に落ちていた、
暑い夏だった。
―もうあわない
言った俺を、細川は最高潮に機嫌の悪い、泣きそうな顔をして見上げた
―なんで
―今まで黙ってて、ごめん。
俺、な。
ホモなんだ。
秘密を話すように、そおっと口に乗せた、
細川は、さして驚きもせず、それが、と言った。
―細川、ホモ嫌いだろ
―お前は、嫌いじゃないよ
―俺がだめなの。
ホモだからさ、これ以上つきあっていたら、
細川傷つけそうで。
分かってくれよ、と俺は言った。
細川に負けずに、俺だって泣きそうだった。
心がしくしく痛かった。
本当は、細川を手放したくなかった、
好きなんだと言って、愛しちまいたかった。
―おまえ、ホモだってばらされてもいいのかよ。
―え?
―お、おまえが、俺のことあわないっていうなら、
ホモってこと、ばらすぞ!
―細川。
頼むよ、と俺は顔を下げた。
―俺とつきあっていたって、
お前にはなんの特にもならないから。
―特?特ってなんだよ、
じゃあ、練習させろ
―練習?
―ホモなら、男とキスしてもいいだろ、
俺、女とキスすんの慣れてないから。
練習させろ、それで勘弁してやる
―ええー
―ええーじゃない、そうしないと、ばらすぞ
結局細川は、一歩もひかなかった。
俺がどんなに頼み込んでも―それまでなら、
俺が心からたのめば、聞いてくれない願いは無かった―決して首をふらなかった。
いつの間にか、心に跡がつくように、
細川のことばかり考えていた。
気がついたら、
今も、昔も、細川が好きだった。
きっと、ずっと、好きなままだ。
細川が、他の人を好きになって、
俺のもとを去るまで。
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ぽつり、ぽつりと、家族ずれや、
なんでこんなとこにいるのか分かりません、と言った顔のカップルが
たまにすれ違う程度。
細川が手をつながないとホモとばらすぞと脅すので、
二人で手をつないでその中を歩いた。
細川はこういう寂れた遊園地が大好きだ。
最後にはつかれて機嫌悪くなるくせに、よく俺やパパを誘っては遊びに来てる。
「小江、あめ買って。」
あめ売りの前で、細川が立ち止まって、嬉しそうに言った。
遊園地に来ると細川は大変嬉しそうになる。
だから、俺も遊園地が好き。
ほんとに嬉しそうな顔するって言ったら、
だって嬉しいもん、と細川は言った。
「ん?なに味?」
「んー、ちょこれーとの!!」
細川が、ぽにぽに手をさする、
なにかにつけ人の手をこすったり、スキンシップを求めてくるのは
細川の癖みたい。はいはい、と笑いながら、
なんだか俺細川の恋人になった気分で、チョコレートの棒形ねじりあめを2本買う。
一本210円。
「ねーあの子、すっげ可愛くない?」
嬉しそうにあめをほうばる細川をなんだか満ち足りた気持ちで見ていたら、
不意にそんな声が聞こえた。
またか。細川と歩いていると、たまにそういう声がかかる、
つまり、なんぱとかなんぱとかなんぱとか。
「隣にいる子もレベルたけーじゃん、
いいじゃんいいじゃん、
声かけてみる?」
「ええーどうするぅ?」
で、決まってこういう時に、細川は機嫌が悪くなるのだ。
案の定細川は顔を思いっきりしかめて、
「小江、行こう。ここやだ」
「あいあい。
次どこ行く?」
「あ、行っちゃうよ」
女たちが焦った声を出す。
「早く。違うとこならなんでもいいから」
怒ったように細川が強く言って、俺の手をぎゅうっとひいて、
駆け足でその場を離れた。
おっとっと。
細川どんどん走る、
「おい、転ぶぞ」
声をかけた途端、細川は足をつっかけて転びそうになった。
その胸を手でささえて、立たせる。
「もういいじゃん?細川、
あいつらもう追って来てないよ」
「……」
ムウッとした顔で、細川は俺の手をじっと見た。
「ん?機嫌悪くなっちゃった?」
「俺、俺のこと可愛いとかいうやつ、嫌いだ!」
ふふ、とため息みたいな笑みが漏れた。
「しかたないじゃん、細川可愛いもん」
「え……俺、可愛い?」
ちょっと微熱があるような、
潤んだ目でそうなのって顔で俺を見上げる。
唇がちょっとあいている。誘うように。
だめ、こういう顔されると、
たまんなくなる。ぎゅって抱きしめたい。
強引に衝動を理性で抑える。
大変なんだよ、細川君。
「可愛いよ。超可愛い」
「……」
細川が視線をそらせて、
耳まで赤くなった。
「ん?なんか熱ある?赤いぞ?」
「おまえが変なこと言うからだ」
「え?俺変なこと言った?」
「言うからだ!!!」
目をそらしたままで、細川が叫ぶ。
んんん?
「……なんだか、俺、細川のこと怒らせてばっかりだな」
ちょっとため息を漏らし、悲しい顔をする。
照れてるんだろ、分かってるけど、わざと気づかないふりしちゃうぞ、
ちょっとからかってみたい気分。
「ち、ちがう」
細川が慌てたように、俺の顔を見上げる。
光にあたって目がきらきらしてる。
「怒ってない……
俺、照れ屋だから、
お前にいろいろ言われると、て、て、照れちゃっうし
だから恥ずかしくて、
だ、だから……」
衝動的に、細川にキスした。
あ、みんなに見られてしまう、と想ったけど止まらなかった。
細川の柔らかい唇、強く抱き寄せると、
細川がきゅうっと俺を抱きしめ返す。
可愛いんだ、てれちゃう、だって、恥ずかしくて、だって
てれてたの、恥ずかしいの、かっあいいんだ。
「照れてたんだ」
離れて、ふうっと微笑むと
「そ、そんな変な顔すんな」
「んあ?へんなかおしてる?」
「や、やさしいかおしてる……」
「……」
もう、そんな可愛いことばっかりさ、細川さ、
ほんと、たまんないから、勘弁してよ。
「怒ったわけじゃないんだねぇ」
「お、おこってない」
細川が余計真っ赤になって、俺の手をぎゅうっと握りしめた。
「つぎ、観覧車のりたい……
いい?」
俺は微笑んだ。
観覧車から見える景色は、群青の海を遠くにうつしてる。
深いビリジアンの森々に、すうっと光があたり、
雲の影をうつして、またすうっと光る。
「……」
無言で細川はその景色に魅入っていた。
手のひらをぺったりガラスにつけて。
まるっきり、子供みたいに。
片方の手は、俺の手につながれていて、
俺がこちょこちょっとくすぐると、だめーっと言いながら、
手をぎゅうっと握る。
ようやく見飽きたのか、細川が俺の傍に座って、じっと今度は俺を見出した。
「なんでみてるんですか」
「手、噛んでいい?」
「いいよ」
たまに細川は、誰もいないとき、俺の手を噛んでいい?と聞いて、
噛む時がある。
昔から好きなの、噛みたくなるんだ。と、
なんで?って聞いたとき、そう言っていた。
好きなのって俺?って聞きたかったけど、違うよって言われそうで、
聞けずじまい。
許可をもらって細川は嬉しそうに、手をそおっと口に運んで、
舌でちょっと舐めて、口に含んだ。うっとりした顔してる。
細川の歯は力なく、柔らかく柔らかく俺を噛み締める。
あむ、と細川の歯があたる。
あむ、あむ。
細川、たまんないんだよ、本当は俺。
こんな風にされてさ、襲わない方がへんだって言うの。
でもいいんだ。そんな顔、見れるなら、
へんになったっていいよ、俺。
あむあむと思う存分噛み締めた、細川は、
やっと俺の手を放してくれた。
「べたべた」
そう言って笑って、はんかちを取り出して、俺の手をぬぐう。
細川に告白した時のことを思い出した。
高校2年の夏。
蝉の死骸がたくさん道に落ちていた、
暑い夏だった。
―もうあわない
言った俺を、細川は最高潮に機嫌の悪い、泣きそうな顔をして見上げた
―なんで
―今まで黙ってて、ごめん。
俺、な。
ホモなんだ。
秘密を話すように、そおっと口に乗せた、
細川は、さして驚きもせず、それが、と言った。
―細川、ホモ嫌いだろ
―お前は、嫌いじゃないよ
―俺がだめなの。
ホモだからさ、これ以上つきあっていたら、
細川傷つけそうで。
分かってくれよ、と俺は言った。
細川に負けずに、俺だって泣きそうだった。
心がしくしく痛かった。
本当は、細川を手放したくなかった、
好きなんだと言って、愛しちまいたかった。
―おまえ、ホモだってばらされてもいいのかよ。
―え?
―お、おまえが、俺のことあわないっていうなら、
ホモってこと、ばらすぞ!
―細川。
頼むよ、と俺は顔を下げた。
―俺とつきあっていたって、
お前にはなんの特にもならないから。
―特?特ってなんだよ、
じゃあ、練習させろ
―練習?
―ホモなら、男とキスしてもいいだろ、
俺、女とキスすんの慣れてないから。
練習させろ、それで勘弁してやる
―ええー
―ええーじゃない、そうしないと、ばらすぞ
結局細川は、一歩もひかなかった。
俺がどんなに頼み込んでも―それまでなら、
俺が心からたのめば、聞いてくれない願いは無かった―決して首をふらなかった。
いつの間にか、心に跡がつくように、
細川のことばかり考えていた。
気がついたら、
今も、昔も、細川が好きだった。
きっと、ずっと、好きなままだ。
細川が、他の人を好きになって、
俺のもとを去るまで。